【調査】FJプライベートリート投資法人の投資方針は?│福岡都市圏の物件80%超を掲げている私募リートを不動産鑑定士が深掘り

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【執筆・監修】不動産鑑定士 上銘 隆佑
上銘不動産鑑定士事務所 代表

こんにちは。不動産鑑定士の上銘です。

今回のテーマは、福岡特化の私募リート「FJプライベートリート投資法人」。

私募リートの中でも、福岡都市圏への集中投資を明言していることは珍しいため、鑑定評価の現場でも注目度が高まっています。

残念な点は、私募リートのため情報が少ないことです。

実際に投資している機関投資家(銀行など)でなければ、保有物件などの情報にアクセスできないようになっています・・。

ただし、FJプライベートリート投資法人は、上場リートの「オリックス不動産投資法人」が投資口を取得した際にプレスリリースが出たため、情報が一部公開されています!

本記事では、「FJプライベートリート投資法人」の投資方針や投資法人としての特色などを、不動産鑑定士の視点から丁寧に書きたいと思います(ネットで半日掛かりで検索しました!)。

目次

私募リートとは?公募リートとの違い

まずは基本的な整理から。リート(不動産投資信託)には「公募」と「私募」の2種類があります。

  • 公募リート:東京証券取引所に上場され、誰でも売買ができる。
  • 私募リート:特定の機関投資家(銀行など)が投資口を購入する非上場型のリート。

私募リートの特徴は、上場による投資口価格の制約を受けない柔軟なポートフォリオ構築が可能であること、長期運用を前提とする資産管理型の運営が多いことなどです。

FJプライベートリートはまさにその代表格で、特に地元・福岡に特化した不動産戦略が際立っています。

福岡地所とFJアセットマネジメントの関係性

このリートの運用を担っているのが「FJアセットマネジメント株式会社」。

実はこの会社、福岡地所株式会社の100%子会社です。

福岡地所といえば、天神ビジネスセンターやキャナルシティ博多、マリノアシティ福岡など、福岡を代表する大型開発を数多く手がける地場の大手デベロッパーです。

FJアセットマネジメントは、そのグループの資産運用部門として、地元資産への深い理解と継続的な収益性の確保を武器に、私募リート運用を進めています。

福岡リートの親戚?地場2社のすみ分け

FJプライベートリートというと、「福岡リート投資法人(証券コード:8968)の“親戚”なのか?」という声も少なくありません。

確かに、両者とも福岡地所が大株主であり、運営会社もグループ企業が担っています。

ただし、福岡リートが上場REITであり、かつ九州全域の幅広い用途に投資しているのに対し、FJプライベートリートは福岡都市圏に限定した戦略的な投資を行っているという点が大きな違いです。

両投資法人は棲み分けしながら、地場の不動産マーケットを支える存在と言えます。

投資方針の中核は “福岡都市圏に80%以上” の地域特化

FJプライベートリートの最大の特徴は、ポートフォリオの地域比率だと考えます。

  • 福岡都市圏(20市町村):80%以上
  • その他地域(上記以外の地域):20%以下

ここでいう福岡都市圏には、福岡市のほか、春日市・太宰府市・那珂川市・大野城市・筑紫野市・宗像市・福津市・古賀市・小郡市・糸島市・新宮町・久山町・粕屋町・篠栗町・志免町・須恵町・宇美町・筑前町・基山町が該当します。

地元に根ざした運用方針は、不動産の「足元を見た評価」や「地域ニーズに沿った管理運営」において、大きな強みとなります。

用途比率はオフィス重視だが、物流・住宅も視野に

FJプライベートリートが掲げる用途ごとの投資比率は次のとおりです。

  • オフィス:70%程度
  • その他(物流施設・住居など):30%程度

メインはあくまでオフィスですが、物流や住居への投資も一定の割合で実施されています。

それぞれの用途で掲げている選定基準は次の通りです。

オフィス

  • ビジネスエリアとしての高い需要
  • 延床面積7,000㎡以上 または 取得時築10年未満

物流施設

  • 高速道路・主要港へのアクセス、通販対応、配送効率
  • 延床面積5,000㎡以上 または 取得時築10年未満

住居

  • 治安・環境・生活利便性・空室率などの周辺条件
  • 延床面積1,000㎡以上 または 取得時築10年未満

こうした明確な基準は、資産の収益安定性と流動性を確保するためのもので、長期運用を志向する私募リートとしては非常に堅実な方針だと感じます。

天神ビジネスセンターの取得とその意味

FJプライベートリートが取得予定として掲げている代表的な物件が「天神ビジネスセンター」です。

  • 所在地:福岡市中央区天神一丁目10番20号
  • 竣工:2021年9月
  • 取得予定日:2023年4月3日
  • 賃貸可能面積:34,248.3㎡(準共有持分24.6%)

福岡地所が開発を主導した本物件は、天神ビックバンの中核プロジェクトであり、地域のランドマークとして存在感を放っています。

準共有持分の取得ではありますが、ビル全体持分のうち20.4%に相当する所有権を有することとなり、地場の不動産市場に対する信頼と存在感を如実に示すものです。

評価実務でも、天神ビジネスセンターの収益力は非常に高く、グレード・立地・テナント構成・設備更新計画のいずれを取っても、東京都心Sクラスと遜色ないオフィスと考えます。

LTV48.0%は保守的?その意味するところ

FJプライベートリートのLTV(Loan to Value=負債比率)は、2023年12月期末時点で48.0%

J-REITでは60%前後まで借入を活用するケースもあるなかで、LTVが50%を下回っているというのは比較的慎重な財務運営といえます。

この背景には、地場密着型リートとしての「着実に資産を積み上げていく」運用姿勢が反映されていると考えられます。

無理に物件を増やすよりも、テナントの稼働や収益性、修繕計画までを丁寧に見極めた上での資産取得。

特に、長期運用を前提とする私募リートにおいては、急激な拡大よりも、安定したキャッシュフローを重視する傾向が強いです。

オリックス不動産投資法人との関係とは?

興味深い点として、FJプライベートリートの出資者の中に「オリックス不動産投資法人(証券コード:8954)」の名前があります。

これは、単なる投資目的というより、戦略的な関係構築の一環とも受け取れます。

  • オリックスリートは全国展開の大手不動産投資法人
  • FJは福岡特化型の私募リート

両者が連携することで、全国と地域の評価視点が交差し、物件取得や保有運営においてシナジーを生む可能性があります。

鑑定評価の実務においても、こうした資本関係や投資方針が、利回りや事業リスクの認識に影響することは少なくありません。

不動産鑑定士から見る今後の注目ポイント

最後に、鑑定実務の立場からFJプライベートリートにおける注目すべき評価ポイントをいくつかまとめておきます。

  • 福岡都市圏に絞った戦略と投資物件の選別眼
  • オフィスを軸としながらも、物流・住居を柔軟に取り入れる構成
  • スポンサー(福岡地所)パイプラインによる情報優位性
  • 財務安定性と堅実なLTV水準(48.0%)
  • 他の機関投資家との関係構築(オリックスリートなど)

今後は、

  • 物流施設の取得強化(博多港湾部や糟屋郡周辺)
  • 住居ポートフォリオの拡充(ファミリー向けRC物件)
  • 天神再開発の次フェーズにおける関与

などが注目されるポイントになると考えています!

福岡の都市成長とともに、「FJプライベートリート」がどう運用資産を積み上げていくのか、 その動向は福岡で不動産鑑定評価を担う立場として注視していきたいところです。

この記事が、福岡の不動産市況やリート投資に関心を持つ方の参考になれば嬉しいです。


以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑

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