【連携事例】親族間売買のための不動産鑑定│税理士さんとの連携で新設法人への時価譲渡を実現

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【執筆・監修】不動産鑑定士 上銘 隆佑
上銘不動産鑑定士事務所 代表

目次

社長個人の賃貸マンションを新設法人に売却して「所得税を削減」した事例

「社長個人が所有する賃貸マンション、そろそろ法人に移したいけど、税金ってどうなるんだろう…?」

実はこのようなご相談、税理士さん経由で意外と多く頂きます。
今回は、不動産鑑定士として実際に関与した「賃貸マンションの法人への売却事例」をご紹介します。
※依頼者保護のため、実例を参考としたフィクションとなります。

大事な点は「親族間売買」「時価評価」「みなし譲渡所得」「不動産鑑定評価の活用」です。

事例の概要

ご相談いただいたのは、ある企業の社長さん(70代)。
長年にわたって個人名義で賃貸マンション(福岡県内所在)を4棟保有し、安定した家賃収入を得ていました。

ただ、高額な家賃収入により所得税が高額であり、悩みの種とのこと。
そろそろ相続も見据えて、新設法人にこれらの物件を移したいというご意向がありました。

このとき課題となるのが、

  • 譲渡益に対する所得税・住民税(個人課税)
  • 不動産の評価方法(時価での譲渡が原則)
  • 税務署からの否認リスク(特に親族間・関連法人間の取引)

といった点です。

そこで、税理士の先生からお声掛けいただき、不動産鑑定評価を活用した「時価譲渡」の形で進めることになりました。

ポイント①:親族間・関連会社間の売買は「時価」で行うのが鉄則

今回のように、個人から“関連性のある法人”に不動産を売却する場合、たとえ契約書上は自由な価格設定ができたとしても、税務上は「時価」で評価されます

つまり、仮に「1億円の価値がある物件を5000万円で売った」などとすると、税務署から「著しく低い価格による譲渡」と判断されて、個人には所得税(みなし譲渡所得)新設法人には法人税(受贈益)が発生する可能性があります。

この「時価」をどう示すかが非常に重要になるわけですが、ここで私たち不動産鑑定士の出番です。
不動産鑑定の内容と結果(時価)を示す「不動産鑑定評価書」は不動産鑑定士のみが作成できる独占業務となります。

ポイント②:不動産鑑定評価によって「適正な時価」を明示

今回は4棟の賃貸マンションすべてについて、不動産鑑定評価書を作成しました。

特に着目したのは以下のポイントです:

  • 収益還元法を適用。現況の賃料収入と空室率を反映。
  • 立地や建物の築年数等を考慮した適正な還元利回りを設定。
  • 市場動向や取引事例を踏まえた実勢価格との整合性を重視。
  • 原価法による積算価格についても、税務署に説明を求められる可能性があるため丁寧に試算。

本件のような収益物件は、通常、鑑定評価額>固定資産税評価額、となりますが、実勢価格と乖離がないことが確認できる内容となりました。

この評価額を基に税理士さん等が売買契約を締結し、「適正な時価」での譲渡という形を税務的にもきちんと説明可能なスキームとすることが出来ました。

なにより、依頼者の方が理解しやすく、また、複雑なことはしたくないというご意向にも沿うことが出来ました。


ポイント③:社長の所得税の圧縮に成功

最大のポイントは、社長が所有する不動産は取得時期が約10年ほど前であり、簿価が建物の減価償却により逓減していたことです。

つまり、評価額=譲渡価格と比べて譲渡益が出やすい状況だったのですが、不動産鑑定評価で「時価」を明示したことで、社長には納得感のある適正な譲渡所得を計算することができました。

その結果、

  • 譲渡所得の税負担を適正な範囲にできた。
  • 法人側では減価償却資産として計上できる。
  • 今後の相続時には「法人所有」としてスムーズに移転可能。

というメリットをしっかり実現することができました。

当事務所としても、社長のご意向に沿いながら報酬を頂くことができ、大変嬉しく思います。

固定資産税評価額とは別物なので要注意

ここでひとつ注意点を。

よく「固定資産税評価額で売っても大丈夫ですか?」と聞かれることがありますが、税務上の「時価」は固定資産税評価額とは異なります

あくまで「市場で自由に売買されるとしたらいくらか?」という視点での評価になりますので、第三者による不動産鑑定評価書を添付することが有効です。

特に今回のような親族間売買の場合、金額が数億円に達するため、税務署からの指摘が入る可能性が高いとのことです(連携した税理士さんの話では、億を超える場合には鑑定必要と考えているよう)。

まとめ:親族間売買では「不動産鑑定士」の視点が役に立ちます

今回のように、個人が長年保有してきた賃貸不動産を新設法人に売却する場合、税理士さんとの連携だけでなく、不動産の“価値”を正確に示せる専門家=不動産鑑定士の力が役に立ちます。

「所得税を圧縮したいけど、やり方がよく分からない」
「親族間で不動産を売買するが、譲渡価格の設定が心配」
という方には、ぜひ不動産鑑定評価の活用をご検討いただきたいと思います。

不動産鑑定の実務に携わり11年目、税理士さんとの連携事例も増えてきましたので、親族間売買の際にはぜひ当事務所をご活用いただければと思います。

ご質問等はメール(info@jkantei-office.com)またはお問い合わせページよりお願いいたします。


以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑

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