【解説】原価法ってどんな手法?①│不動産の価値を“コストアプローチ”で判定する方法

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【執筆・監修】不動産鑑定士 上銘 隆佑
上銘不動産鑑定士事務所 代表

こんにちは。不動産鑑定士の上銘です。

今回は「原価法」と呼ばれる不動産の評価手法について、大学生の方や士業の方にも伝わるよう、できるだけわかりやすくお話ししていきます。

キーワードとして「コストアプローチ」「再調達価格」「減価修正」に着目して書いていきます!

目次

不動産の価格はどうやって決まる?

不動産の価格は、感覚や印象だけで決まるものではなく、一定の理論に基づいて評価されます。

その代表的な手法が「原価法」「取引事例比較法」「収益還元法」の三つです。

手法名見るポイントざっくり言うと
原価法(コストアプローチ)費用性建て直したらいくら? という発想
取引事例比較法(マーケットアプローチ)市場性他の類似物件はいくらで売れている?
収益還元法(インカムアプローチ)収益性どれくらい稼げる物件か?

今回取り上げる「原価法」は、その不動産を今もう一度つくるとしたら、どれくらい費用がかかるのかという視点から価値を考える方法です。

いわば“建て直すコストに見合った価値を測る”という費用ベースの考え方ですね。

原価法のイメージ

建て直すコストで価値を測る

たとえば、築20年の木造住宅があったとします。
この家を今まったく同じように新築するとしたら、現在の建築費はいくらかかるのか。

そして20年経過した分の劣化や古さを考慮したうえで、今の時点での価値はどのくらいか。
そんなふうに考えるのが原価法の基本的なイメージです。

原価法が適している不動産とは?

原価法は、自分で使用する戸建住宅や工場、自社ビルなどに特に向いています。

  • 自用の建物やその敷地(戸建住宅、自社ビル、工場など)
  • 賃貸建物やその敷地(賃貸マンション、貸ビルなど)


また、賃貸マンションやオフィスビルなど、収益を生む不動産にも場合によっては適用されます。

ただし、再調達原価や減価修正の見積もりが難しいケース、または周囲に似た物件の売買事例が豊富なエリアでは、原価法以外の評価手法が優先されることもあります。

再調達原価とは?

今建て直したらいくらかかるか?

原価法の第一ステップは、「再調達原価」を求めることです。
これは、その不動産を価格時点(つまり評価する現在)において新しく建てるとしたら、どれくらい費用がかかるのかを算出したものです。

ここで注意したいのは、「過去にいくらかけて建てたか」ではなく、「今建てるならいくらかかるか」を見積もるという点です。

たとえば20年前に建てた家が2000万円だったとしても、今では建材費や人件費の上昇で3000万円かかるとすれば、それが再調達原価になります。

建物の再調達原価を出す2つの方法

建物の再調達原価には、主に「直接法」と「間接法」の2通りのアプローチがあります。

直接法は、対象となる建物そのものの建築費を現在の単価で見積もる方法です。
一方、間接法は、対象と似た構造・規模・用途を持つ建物と比較して、再調達原価を導き出す方法です。

たとえば、実際に建てた当時2000万円だった建物が、現在の水準で1.5倍のコストがかかると見込まれるなら、再調達原価は3000万円になります。

土地の再調達原価とは?

建物だけでなく、土地についても再調達原価を出す必要があります。
ただし土地は、建物のように“もう一度作る”ことができるわけではないため、主に市場での取引価格(相場)をもとに見積もります。

たとえば福岡市城南区にある住宅地であれば、近隣の取引事例を参照し、「このあたりなら○○万円/㎡が妥当だ」といった形で価格を想定していきます。

次のステップは減価修正

再調達原価が求まったら、次に行うのが「減価修正」です。
これは、築年数や性能の陳腐化によって、建物の価値がどれくらい下がっているかを見積もる作業です。

減価の3つの要因

減価の要因には、大きく分けて次の3つがあります。

物理的要因
 時間の経過による老朽化、破損、自然損耗など (例:壁のひび割れ、基礎の腐食)

機能的要因
 設計や設備の古さによる使い勝手の悪さ (例:間取りが古い、エレベーターがない)

経済的要因
 周辺環境の変化により市場性が下がったケース (例:住宅街に商業施設が建って騒がしくなった)

まず一つ目は物理的要因です。
これは時間の経過による老朽化や摩耗、自然による劣化といった、建物の「見た目」や「機能の衰え」に関わる部分です。

次に、機能的要因があります。
これは間取りが古い、耐震性能が不足している、エレベーターがないなど、使い勝手や設計の古さに由来する価値の下落です。

そして三つ目は経済的要因です。
これは周辺環境が変わってしまったことで、立地としての魅力や市場性が下がってしまった場合です。たとえば静かな住宅地だった場所に幹線道路が通って騒がしくなった、などがこれに当たります。

減価修正の方法

減価修正には「耐用年数に基づく方法」と「観察減価法」の2つがあります。

① 耐用年数に基づく方法(定額法・定率法)

  • 定額法:年数に応じて一定の割合で減価していく
  • 定率法:年ごとに減価率が変化する(より早い段階で大きく減る)

建物の構成部位ごとに耐用年数を設定し、経過年数と残存年数のバランスで価値を割り出します。
たとえば、木造住宅で「躯体30年、仕上げ20年、設備15年」など。


② 観察減価法

現地で建物の状態をチェックし、「実際にどれくらい劣化しているか」を判断する方法です。
設備の故障や壁のひび割れ、塗装の剥がれなど、見た目や機能の実態に基づいた減価を行います。

この観察減価法は、耐用年数では見落としやすい“目に見える劣化”を拾い上げるために大切です。

注意点としては、経年による劣化はここでは計上しないという点です。経年劣化は耐用年数に基づく方法で計上するためです。

あくまでも、経年を超えた劣化がある場合に、観察減価として計上します(混同しやすく、要注意です!)

次回予告

今回は原価法の考え方や適用対象、再調達原価や減価修正の基本について解説しました。

少し実務寄りの内容で書いてみました!

次回の後編では、実際のRC造ビルの評価をもとに、数値を使った積算価格の出し方を詳しく紹介します。

中古住宅や事務所ビルの価格がどのように決まるのか、実務の視点を交えて解説しますので、ぜひ後半もお楽しみに!


以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑

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