
この記事は、下記の後編となります。

こんにちは。不動産鑑定士の上銘です。
今回は原価法の後編として、実際の評価ケースを用いながら、どのように再調達原価と減価修正を行い、積算価格を求めていくのかを解説していきます。
前編では、「再調達原価を求め、そこから減価修正を行って積算価格を出す」という原価法の流れをお話ししました。ここでは、その流れを実際に数字を用いて具体的に見ていきます。
評価の前提条件を整理する
ここでは、ある鉄筋コンクリート(RC)造の事務所ビルを評価対象としたケースを想定します。
評価のための前提条件は以下のとおりです。

- 所在地:福岡市城南区鳥飼六丁目
- 用途:事務所ビル
- 土地面積:500㎡
- 土地単価(相場):60万円/㎡
- 建物:RC造4階建て、延床面積1000㎡、築20年
- 建築単価(現在):25万円/㎡
- 建物構成:躯体40%、仕上30%、設備30%
- 減価修正方法:定額法
- 損傷・不具合:経年劣化以外に特段なし
土地の再調達原価を求める
土地の価格は、周辺の取引事例に基づいて評価します。
- 土地面積:500㎡
- 単価:60万円/㎡
- 計算:500㎡ × 60万円 = 3億円
地震や洪水などによる特別な減価要因は認められないと仮定しているため、土地については減価修正なしで再調達原価=評価額とします。
建物の再調達価格を求める
建物については、現在同じ建物を新たに建築した場合のコストを基準にします。
- 延床面積:1000㎡
- 単価:25万円/㎡
- 再調達原価:1000㎡ × 25万円 = 2億5000万円
再調達原価の計算では、過去の建築費ではなく、「今この時点で建てるならいくらかかるか」という視点が大切です。
付帯費用を計算
付帯費用は、建物の設計料などを考慮するために設けられています。
ここでは土地と建物の10%相当額を付帯費用とします。
多数の鑑定評価書を見てきましたが、実務的には10%~20%の範囲が多いです。
減価修正を行う
土地は特に減価要因がないため、減価修正0%です(建物があるとマイナスな場合=建付減価)。
建物は築20年が経過しているため、建物の構成要素ごとの耐用年数をふまえて減価率を計算します。
各部位の耐用年数と構成割合は次のとおりです。
- 躯体:耐用年数50年、構成比40%
- 仕上:耐用年数25年、構成比30%
- 設備:耐用年数15年、構成比30%
築10年の減価率は以下のとおり計算されます。
- 躯体:40% × (20年 ÷ 50年) = 16%
- 仕上:30% × (20年 ÷ 25年) = 24%
- 設備:30% × (15年 ÷ 15年) = 30%※
※耐用年数を超えた場合には、MAXの年数となります。
合計すると、減価率は16%+24%+30%=70%となります。
再調達原価が2億5000万円なので、減価額は1億7500万円です。
今回は建物の損傷や故障は認められず、経年以外の減価は見られないという前提のため、観察減価法による追加減価はありません。
また、付帯費用は築古で全て償却されていると判断し、減価率100%とします。
積算価格を算出する
ここまでの計算を整理すると、積算価格(原価法による評価額)は以下のようになります。
- 土地の再調達価格:3億円(減価なし)
- 建物の再調達価格:2億5000万円
- 付帯費用の減価額:5500万円
- 減価修正額:▲3億3000万円
- 合計評価額(積算価格):土地3億円+建物7500万円+付帯費用0円=3億7500万円
このようにして、再調達原価と減価修正を組み合わせることで、建物の現在価値を求め、土地と合わせた不動産全体の評価額を導き出すことができます。
原価法は実務でどう使われているか
原価法によって導かれた積算価格は、市場価格と常に一致するわけではありません。
あくまで「再調達にかかる費用」からみた理論的な価値であって、実際の需要や収益性、取引の動きなどを反映するわけではないからです。
実務ではこの原価法に加えて、
- 取引事例比較法(市場の取引価格をもとに評価)
- 収益還元法(収益性から価格を評価)
といった他の手法と併せて多角的に分析し、最終的な鑑定評価額を導き出していきます。
原価法を知るメリット
原価法を理解することで、価格の背景にある“コストアプローチ”の論理が見えてきます。
たとえば次のような場面で役立ちます。
- 戸建住宅や自社ビルの評価根拠を納得感のある形で示したいとき
- 取引事例比較法では選ぶ事例によって、大きく価格が変わるため、複数手法が望ましいです。
- 賃貸用不動産の簿価や建物価格の根拠を把握したいとき
- 新築時の簿価の推定に原価法が役に立ちます。
- 相続や遺産分割などで不動産の「本当の価値」を問われたとき
- 当初、いくらだったか計算するのに原価法が有用です。
また、税理士や弁護士、宅建士といった士業の方にとっても、原価法の考え方を知っておくことで、より信頼性の高い助言が可能になります。
まとめ
原価法は、「その不動産をいま新たに手に入れるにはいくらかかるか」という視点で不動産の価値を算定する方法です。
再調達原価をベースに、建物の経年劣化や性能低下などを適切に反映することで、現在の“コストに見合った価値”を導き出します。
市場や収益といった視点とはまた違う、コストに基づく価値の見方を学ぶことで、不動産を見る目はより立体的になっていきます。
これから不動産を学ぶ学生の皆さん、そして日々実務に向き合う士業の方にとって、原価法という一つの考え方が判断力の引き出しの一つになれば嬉しいです。
個人的にも、原価法は重視するようにしています。
特に、価格が高騰しがちな新築マンションでは、取引事例比較法による価格形成がなされていますが、仮にリーマンショックのような経済不安が来た時には、原価法が一つの価格指標になります。
鑑定評価基準的に言えば、「先走りがちな取引価格に対する有力な検証手段」という側面を原価法が担っています!
以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑
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