
北九州市門司区の地価動向を読み解く
門司区は、福岡県北九州市の最北端に位置する歴史とロマンの街です。
古くは国際貿易港として栄えた門司港エリアを有し、JR鹿児島本線沿線にはJR門司駅、JR門司港駅、JR小森江駅などがあり、鉄道交通の便も整っています。
令和7年の地価公示では、住宅地が前年に引き続き微減傾向ではあるものの、下落幅は縮小しています。
商業地はわずかに上昇しており、エリアによって明暗が分かれる結果となりました。
門司区の地価動向について、住宅地と商業地それぞれに分けて、不動産鑑定士の視点から詳しく見ていきたいと思います。
住宅地の地価動向│令和7年は下落幅が縮小
門司港地区は依然として厳しい状況
まず、門司港地区についてです。門司港駅を中心としたこのエリアは、北九州市内でも特に高齢化が進んでいる地域であり、人口減少も著しい状況となっています。そのため、住宅地の地価は全般的に下落傾向が続いています。
門司港地区は観光地としては非常に有名で、「門司港レトロ」や「門司港レトロハイマート」といったランドマークがあり、多くの観光客が訪れる場所です。
しかし、日常生活の面では就労機会に乏しく、また福岡市や小倉中心部への通勤にも時間がかかるため、定住先としての人気はどうしても高まりにくいのが現状です。
こうした背景から、令和7年の住宅地(門司区)の平均変動率は▲0.2%と、依然として下落しているものの、前年(▲0.3%)と比較すると若干下げ止まってきている様子もうかがえます。
大里地区は通勤利便性の良さから人気維持
一方で、JR門司駅を中心とする大里地区は、非常に利便性が高いエリアとして安定した人気を誇っています。
JR鹿児島本線を利用すれば、すぐに小倉中心部までアクセスできるため、小倉北区のベッドタウン的な役割を果たしてきました。
大里地区は、大里本町、大里戸ノ上といったエリアを中心に、平坦地が広がっており、かつての土地区画整理事業により今日の車社会にも対応できる都市構造となっています。
スパイシーモール門司など、中規模スーパーや生活利便施設も点在しており、非常に暮らしやすい街並みが形成されています。
ただし、大里地区もすでに新規の宅地開発余地が少なく、住宅地供給が難しくなってきているため、近年では若干人気が八幡西区や小倉南区へ流れる傾向も出てきています。
それでもなお、大里地区の住宅地は横這いまたは微増傾向を維持しており、令和7年の地価動向でも安定感が感じられる結果となりました。
縁辺部は利便性の差が地価に直結
なお、大里地区や門司港地区の縁辺部、つまり中心地から外れたエリアでは、利便性の低さがどうしても影響しており、住宅地の地価は引き続き下落傾向にあります。
駅から遠い、バス便もあまり良くない、スーパーなども少ない──そういった地域では、やはり地価の下支え要因が少ないため、下落傾向が続いているというわけです。
商業地の地価動向│令和7年は微増傾向
門司港地区の商業地は明暗分かれる
門司港地区では、かつて栄えた栄町商店街(アーケード街)などがありましたが、背後人口の減少に伴って商業機能は弱体化してきています。
門司港レトロ周辺は観光需要があるとはいえ、日常的な買い物需要はどうしても限られてしまうため、厳しい状況が続いています。
それでも近年、門司区錦町のハローデイ門司港店周辺では、徐々に新しい店舗の出店が見られるようになってきました。こうした動きが続けば、将来的にはこのエリアが門司港地区の中心商業地として再生していく可能性もあります。
令和7年の商業地の平均変動率は1.8%。前年(2.0%)からは若干低下したものの、広い道路に面した立地では確実に新たな需要が生まれており、地価の上昇要因となっています。
一方で、古いままの店舗が立ち並ぶエリアについては、相変わらず下落傾向が続いており、商業地の二極化が進んでいる状況です。
大里地区の商業地は堅調に推移
大里地区では、JR門司駅前の柳町が中心的な商業エリアとなっています。
門司駅は、JR九州管内でも一日の利用者数が1万人を超える、かなり利用者の多い駅です。この交通利便性の高さが、駅前の地価を支える大きな要素となっています。
駅周辺にはマンション需要も高まっており、幹線道路沿いでは高容積率を生かしたマンション開発が進められています。
こうしたマンション素地需要も商業地の需要を後押ししており、結果的に地価上昇傾向を維持しています。
大里地区の商業地は、日常生活に必要なスーパー、ドラッグストア、飲食店などがバランスよく立地しており、住民にとっても使い勝手の良い街となっています。これがまた住宅地人気を支え、ひいては商業地の地価にも良い影響を及ぼしているわけです。
その他エリアは住宅地の動向に連動
門司港地区やその他のエリアにおいては、背後住宅地の盛衰が商業地にもそのまま反映される形となっています。つまり、住宅地が減少傾向であれば、当然ながら商業地の地価も弱含みになりやすいということです。
門司区においては、観光地需要と定住需要の間でバランスを取るのが今後ますます重要になってくるでしょう。
まとめ│門司区の地価はエリアによる二極化が鮮明に
令和7年の門司区の地価動向をまとめると、次のようになります。
住宅地については、門司港地区では依然として下落傾向が続いていますが、下落幅は縮小してきています。
一方で、大里地区では通勤利便性の高さから人気を維持しており、横這い乃至微増の安定した地価動向を見せています。
商業地については、門司港地区では広い道路沿いに限り需要が回復しつつあり、大里地区では引き続き堅調な推移となっています。住宅地人気が商業地需要を支える構図が、大里地区では今後も続く可能性が高いでしょう。
門司区全体を見ると、鉄道や道路の利便性、住宅地の新陳代謝の有無など、地域特性による地価動向の違いがますます鮮明になってきた印象です。
今後、どのエリアにどのような再開発やインフラ整備が進んでいくかによって、地価の地図はまた大きく塗り替わっていくかもしれません。門司区の未来にも注目していきたいですね。
個人的には、門司区は小倉のベットタウンとして住宅需要は根強いと感じています。ただ商業はどうしても小倉方面に取られてしまうので、商業地としては少し弱含むかなと予想しています。
以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑


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