【解説】不動産鑑定の実務 #01 対象不動産の確定│隣地登記簿は必ず取るべし

不動産鑑定の実務に携わり11年目になります。私なりに実務上注意している点をご紹介いたします。

不動産鑑定士の写真

【執筆・監修】不動産鑑定士 上銘 隆佑
上銘不動産鑑定士事務所 代表

まず不動産鑑定というと「価格を計算する仕事?」とよく言われます。もちろん、それは間違いではありません。

ただ、実務ではその前段階の「そもそも対象とする不動産を正しく確定する」という作業がとても重要です。

価格の精緻な計算も、対象不動産を正しく特定できてこそ意味があります。

逆にいえば、ここを間違えると、後の作業がすべて無駄になってしまう可能性もあります・・!

対象不動産を丁寧に確定する」。これが不動産鑑定士にとって、最初の重要課題と言えます。

不動産鑑定のスタートは「地番リスト」から

実際の鑑定依頼では、依頼者から「この土地について評価をお願いします」といった形で依頼を受けます。

添付されている資料は、地番のリストや、固定資産税の課税明細書、場合によっては簡単な地図です。

まず不動産鑑定士が行うのは、その地番リストに基づき、対象となる土地の登記簿公図を取得することです。
最近ではオンラインで簡単に取得できるため、実務の初期段階では、登記情報提供サービスなどを使ってサクサク確認作業を進めていきます。

ここで公図を見ると、対象地の位置や形状がおおよそ把握できます。


次に住宅地図を開き、公図上の対象地が住宅地図上のどの場所に該当するかを確認します。

この流れが、いわゆる「対象不動産の確認」の最初の一歩です。

ここで安心するのはまだ早い

登記簿、公図、住宅地図をもとに対象地を確認できたからといって「これで評価を進めよう」となるかというと、実務ではもう一段階あります。

不動産鑑定士としては、ここからさらに踏み込んで、「周囲の土地(隣地)」についても確認を行います。
具体的には、対象地の隣地の登記簿も必ず取得します。

理由としては、対象地のすぐ隣にある土地が、実は対象地と一体で使用されていたり、登記簿上も同じ所有者だったりするケースが多いためです。

隣地登記簿を取る理由

隣地の登記簿を確認する目的は、大きく分けて二つあります。

一つは、対象地と隣地の所有者が異なることを確認するためです。


もう一つは、隣地との間で地役権や共有持分といった法的な関係が存在しないかをチェックするためです。

所有者が違えば、基本的に対象地と隣地は別々に扱えるため、ひと安心です。


かし、隣地も同じ所有者だった場合には、対象地だけを評価するわけにはいかないかもしれない、という疑いが出てきます。

隣地も同一所有者だった場合は必ず依頼者に確認する

もし、対象地と隣地の所有者が同一だった場合には、依頼者に必ず確認します。

例えば「この隣の土地も、今回の鑑定対象に含める必要はありませんか?」といった形で問い合わせをします。

この確認、ものすごく重要です。
実務上、依頼者も最初は対象地を正確に把握していないことが多いです。

「え?そこもウチの所有だったのか」
「すみません、そこも一緒に評価してください」

このようなやりとりが意外と発生します。
この確認が出来れば一安心です。

(依頼者の方は分からなくて当然です。不動産鑑定士から問い合わせすべき事項ですので、ご安心ください)

対象不動産の特定ミスは取り返しがつかない

対象不動産の特定を間違えてしまうと、すべての鑑定評価が根本からズレてしまいます。

価格の計算方法がどんなに正しくても、対象が違っていれば意味がありません。

あとから対象を修正することは、非常に手間がかかり、依頼者との信頼関係にも大きな影響を与えます。

だからこそ、不動産鑑定士に求められるのは、「慎重に対象不動産を確定する」ことです。

その慎重さが、実は不動産鑑定士としての信用を支えていると私は感じています。

公図と住宅地図だけでは足りないこともある

登記簿、公図、住宅地図を見ていても、対象地の境界が曖昧なことがあります。
たとえば公図が古いものだったり、実際の現況と食い違っていたりする場合です。

そんなときは、建物図面地積測量図で比較検討します。
建物図面は、建物の配置や敷地との関係を知るために有効ですし、地積測量図があれば境界線の正確な位置が分かります。

これらを併せて確認することで、対象地がどのように形づくられているか、より精度高く把握することができます。

私道の持分にも注意が必要

都市部や住宅地では、私道が絡むケースもよくあります。
対象地が接している道路が公道ではなく私道だった場合、その私道に対する持分があるかどうかも重要なチェックポイントです。

私道の持分がないと、通行地役権を巡ってトラブルになったり、物件の評価額に大きく影響したりします。

逆に、しっかり持分が登記されていれば、安心して評価を進めることができます。

現地調査で得られるものは多い

隣地の登記簿を取ることは、対象不動産の範囲を確定するためだけではありません。
隣地との関係性を把握することで、対象地の利用状況や市場性について、より深く理解できることもあります。

たとえば、

  • 対象地と隣地が一体で利用されているか
  • 隣地に越境・被越境している構造物がないか
  • 隣地からの借地権設定や通行地役権が存在しないか

といった点も自然と見えてきます。

これらの情報は、鑑定評価において必須事項と言えます。

最後に:対象不動産の確定は不動産鑑定の実務の基本

不動産鑑定士の仕事は、単に計算をするだけではありません。

どんな不動産を、どういう条件で評価するのか。
その入り口の段階で、正確さと慎重さが求められています。

対象不動産を正確に確定するために、隣地の登記簿を取る。

住宅地図や公図、建物図面、地積測量図も確認して比較する。
そして、疑問点があれば必ず依頼者に確認する。

これらを地道に積み重ねていくことが、不動産鑑定士としての信頼に繋がると信じています。


以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑

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