【調査】不動産鑑定士が見るホテルと賃料の実例|グランドハイアット福岡・界 阿蘇・the b 浅草の今

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【執筆・監修】不動産鑑定士 上銘 隆佑
上銘不動産鑑定士事務所 代表

不動産の世界では、ホテルのような収益物件に関して「いくらで貸しているのか?」という点は、非常に重要なポイントになります。

ただ、ホテルというのはオフィスビルやレジデンスとは違い、賃料の仕組みが複雑になりがちです。

今回は、不動産鑑定士の立場から、グランドハイアット福岡・界 阿蘇・the b 浅草という3つのホテルを取り上げて、それぞれの特徴と「固定賃料・変動賃料」の考え方について整理してみたいと思います。

※データは星野リゾートリート投資法人様の公表資料をお借りしています。

目次

そもそもホテルの「固定賃料・変動賃料」とは?

まずは用語の確認から。

ホテルの賃料は、大きく分けて次の2つで構成されるケースが多いです:

  • 固定賃料(Minimum Rent):稼働率や売上にかかわらず、オーナーに必ず支払われる基本賃料
  • 変動賃料(Variable Rent):売上や営業利益(GOP)に連動して支払われる成果報酬型の賃料

ざっくり言うと、「最低限もらえる家賃」と「儲かった分の取り分」という構造なのです。

不動産オーナーから見ると、安定性と収益性のバランスをどう取るかが重要なポイントになると思います。
特に、コロナ禍ではホテル売上がほとんど消失し、固定賃料すら払えないというホテルが続出しました。

変動しやすいホテル売上に対して、どのような賃料形態を採用するかで、オーナーとしての力量が問われることになります。


グランドハイアット福岡|複合施設「キャナルシティ博多」の顔

まずは福岡を代表するフルサービスホテルのひとつ、グランドハイアット福岡について。

運営はハイアットグループ。キャナルシティ博多という大型複合施設の中にあることもあり、観光客・ビジネス客ともに安定した集客力を持っています。

立地と市場ポジション

  • 福岡市博多区、博多駅・天神の中間地点に位置
  • 商業施設や劇場、飲食店も集まり、にぎわいのあるエリア
  • 外資系高級ホテルとしてのブランディングも確立済み

賃料形態の傾向

グランドハイアット福岡のような高級ホテルでは、変動賃料の割合が比較的高めに設定されることが多いと考えられます。

  • 固定賃料:50%程度
  • 変動賃料:50%程度(営業収益連動)

つまり、ホテルの売上が伸びればオーナー側にも収益が増える構造であり、魅力的なスキームとも言える一方で、稼働が落ちたときのリスクも含んでいます。そのため、ある程度の立地力・ブランド力がないと成立しにくいと考えられます。

実際の賃料割合を開示資料から調べると、2024年で固定賃料が63.5%の割合でした。思ったより固定割合が高い印象です。


界 阿蘇|星野リゾートの「温泉×リゾート」の魅力

次に紹介するのは、熊本県阿蘇郡南小国町にある界 阿蘇です。星野リゾートが運営する温泉旅館型のリゾート施設で、都市型ホテルとは異なる魅力があります。

立地と市場ポジション

  • 自然に囲まれた立地で、「癒し」や「静けさ」を求める層に人気
  • 地元食材や温泉といった地域資源を活かした滞在型施設
  • ライフスタイル型の宿泊体験を提供している点が特徴的

賃料形態の傾向

界 阿蘇のような地方型リゾートホテルでは、売上に季節変動があるため、変動賃料の割合が高めになる傾向があります。

  • 固定賃料:20〜30%程度
  • 変動賃料:70〜80%程度(売上や稼働率連動)

星野リゾートのように、運営力に定評のある事業者だからこそ、変動型の契約形態が選ばれているはずです。オーナーにとっても、信頼できる運営者であることが重要な判断材料になるのです。

実際の賃料割合を開示資料から調べると、2024年で固定賃料が100%の割合でした。
変動賃料が発生するハードルが高すぎるのでしょうか?変動が発生していないのが意外でした。


the b 浅草|都市型ビジネスホテルのスタンダード

最後に取り上げるのは、東京・台東区のthe b 浅草。観光とビジネス需要の双方を取り込む中規模ホテルで、イシン・ホテルズ・グループが運営しています。

立地と市場ポジション

  • 浅草駅・田原町駅の徒歩圏内という好立地
  • インバウンド需要の回復とともに稼働も上昇中
  • 運営が効率化されており、コストパフォーマンスの良さも魅力

賃料形態の傾向

都市型ビジネスホテルでは、安定した固定賃料を重視するケースが多いように思います。

  • 固定賃料:60〜80%程度
  • 変動賃料:20〜40%程度(インセンティブ的な位置付け)

the bのようなブランドビジネスホテルは、投資対象としての安定性も評価されやすく、金融機関の融資判断においても好印象を与える物件タイプだと思います。

ただ実際の賃料割合を開示資料から調べると、2024年で固定賃料が19.1%、変動が80.9%の割合でした。
インバウンド客等により売上好調の恩恵を受けていますね。


不動産鑑定士として注目したいポイント│3物件の比較

今回の3つのホテルを比べてみると、「立地」「運営者の力量」「ターゲット層」などによって、賃料構成の考え方がかなり異なることが分かります。

  • 都市型・高級ホテル:売上に連動した変動型でも成立しやすい
  • 地方型・リゾートホテル:変動リスクはあるが高収益も期待できる
  • 都市型・ビジネスホテル:安定志向で固定賃料比率が高め

不動産鑑定評価を行う際には、こうした背景事情を丁寧に読み解きながら、「収益構造の実態」「市場賃料との整合性」などを客観的に分析することが重要になってきます。

重要なのは、フルサービスの高級ホテルなら変動賃料が高そうだなといった場合でも、実際の賃貸借契約をみると真逆という場合もあります。
鑑定士泣かせのアセットといえますが、将来的なホテル売上の予測次第で値決めができる面白さもあります。


まとめ|ホテル賃料の奥深さと面白さ

ホテル物件の評価は、レジデンスやオフィスビルとはまた違った面白さがあります。「固定賃料+変動賃料」という二重構造のなかに、運営者の戦略や立地の力が色濃く反映されるからです。

不動産鑑定士として、これからますます増えていくであろうホテル案件に対して、まずは不動産市場の情報収集。そして、冷静かつ柔軟に対応していけるよう、実務に励んでいきたいと思います。


以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑

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