
はじめに:北九州市の地価が語る「街の今」
2025年(令和7年)の地価調査の結果が発表されました。
私たち不動産鑑定士から見ると、北九州市全体が元気な上昇トレンドの中、各区で本当に面白い動きを見せているのがわかります。
特にハッキリしているのは、駅チカで便利なエリア、そして住みやすい「平坦地」への人気がグッと集中し、結果として地価の「二極化」がさらに進んでいることです。
中でも注目度ナンバーワンは、小倉と黒崎を再生させるビッグプロジェクト「コクラ・クロサキリビテーション」の進展でしょう。
小倉北地区ではITビルに続いて第二弾の商業ビル建設が京町で決まり、黒崎地区では容積率の緩和という強力な後押しがあります。また、分譲マンション高騰の波が押し寄せています。
今回のR7地価調査のデータを、各区の状況と合わせて、わかりやすく解説していきます。
門司区:観光パワーと「住む場所」の選別
門司区の地価の動きは、門司港レトロの観光地としての顔と、住宅地としての現状、二つの側面を映しています。
住宅地:便利な平坦地はなんとか堅調、郊外は厳しい状況
門司区の住宅地平均変動率は、前年のプラスからマイナスに転じ、▲0.2%とわずかに下落しました。
JR門司駅前や小倉方面に行きやすい社の木地区、原町別院地区などの平坦地の住宅地は、相変わらず需要が根強く、上昇傾向を保っています。
ただ、上昇の勢いには「少し陰りが見える」のが正直なところ。資材価格の高騰などで買い控えが出ていることや、区内での二極化がより進んだことが原因と考えられます。
反対に、交通の便が悪い郊外や坂道が多い傾斜地では、需要が弱く、地価の下落幅が大きくなっています。
「住みやすさ」や「利便性」を重視する傾向が、地価にハッキリ表れていますね。
商業地:門司港レトロの観光回復に期待大
商業地の変動率は+0.5%で、上昇幅は前年より縮小。
門司駅前はスーパーの閉鎖後、すぐに新しいお店が開業するなど、地域の生活を支える商業地として機能しています。しかし、昔ながらの商店街(栄町商店街など)は、住民の減少や高齢化で賑わいが低下しているのが現実です。
そんな中、希望の光は門司港レトロへの観光客回復です。
観光客数が対前年比+22%増と大きく持ち直し、大規模な再開発事業も進められています。
門司港レトロ近くの臨海部開発も含め、これらの事業が観光客をさらに増やし、地域に活気をもたらすかに注目が集まっています。
若松区:東西で異なる街の個性
若松区の住宅地平均変動率は+0.4%、商業地は+0.9%と、どちらも上昇していますが、前年よりペースは緩やかになりました。
住宅地:平坦地の新築戸建てと学研都市が人気
区の東部では、昔からの市街地で平坦地が人気を集め、既存の広い土地を分けて新築の建売住宅が分譲される動きが見られます。
北九州市全体で「平坦地が人気」というトレンドをここでも確認できますね。一方、洞海湾沿いのエリアは需要が少なく、低価格でないと売れにくい傾向にあります。
対照的に、西部の学研都市などの新しい住宅団地は、街並みがきれいに整っていることもあり、需要が安定しています。
戸畑区:土地の「稀少性」が価格を押し上げる
戸畑区は人口密度が市内でも高く、それが地価に大きく影響しています。
住宅地:開発できる土地の少なさが価格を維持
住宅地平均変動率は+2.1%と、市内の他区と比べても高い上昇率を維持しています。
戸畑区は開発に適した土地が本当に少ない(稀少)ため、天籟寺、浅生など住環境の良い平坦地が人気で、高値で取引されることもあります。
ただ、供給量が限られています。反対に、高台の傾斜地は需要が乏しく、地価下落が続いており、利便性の優劣による二極化がより鮮明になっています。
商業地:マンション用地としての魅力が上昇を牽引
商業地平均変動率は+4.5%と、高い上昇率を維持。
JR戸畑駅周辺や幹線道路沿いは、分譲マンションの開発に適した場所として需要が非常に高く、良好な土地利用が続いています。
しかし、駅前のアーケード街は空き店舗が増えており、衰退傾向が続いているのが残念なところです。
小倉北区:都心回帰とリビテーションの波に乗る
北九州市の都心である小倉北区は、地価の動きが最も活発です。
住宅地:都心回帰で人口横ばい、駅チカ平坦地は絶好調
北九州市全体で人口が減る中、小倉北区はほぼ横ばいの人口を維持しており、都心回帰の動きがはっきり見えます。
住宅地平均変動率は+1.8%。
駅から歩ける距離の平坦地が特に人気で、モノレールの「香春口三萩野」駅やJR「南小倉」駅周辺の住宅地への需要が非常に高い状態です。分譲地の供給は小規模にとどまっており、用地不足の状態が続いています。
商業地:第二弾の再開発決定と高騰するマンション
商業地平均変動率は+4.8%ですが、前年の+8.4%からは上昇の勢いがやや落ち着き、地価の高騰は少し落ち着きを見せています。
小倉駅前では、「コクラ・クロサキリビテーション」事業の一環として、ITビルに続いて第2弾の商業ビルが京町に新築中です。これらの再開発が街の賑わいを増やし、地価を押し上げています。
都心商業地での分譲マンション分譲も好調ですが、分譲マンションの価格高騰は続いており、高くなりすぎた物件は完売までに時間がかかるケースも出てきています。
これは、土地と建築費、両方の高騰が購入者にとって大きな負担になっていることを示しています。
小倉南区:利便性の良い場所とそうでない場所の差が拡大
小倉南区の住宅地平均変動率は+0.9%、商業地は+1.2%と、どちらも緩やかな上昇基調ですが、上昇幅は昨年より縮小しました。
住宅地:モノレール・JR沿線と郊外の格差
モノレールやJR駅沿線の交通の便が良い地域は、引き続き堅調で+2%前後の上昇率で推移。一方、郊外や道が狭い地域では需要が弱く、+1%を下回る小幅な上昇率にとどまり、二極化傾向が鮮明です。
八幡東区:住環境が良い平坦地が地価を引っ張る
八幡東区の住宅地平均変動率は+1.5%、商業地は+5.2%と、商業地は比較的高めの安定した上昇率です。
住宅地:平坦地の堅調さと傾斜地の下落
八幡東区も、土地の傾斜や道路の条件による二極化・個別化傾向が明確です。
幹線道路の裏手などにある平坦地で住環境が良い住宅地域では、相場を超える高値取引も見られ、地価は堅調。
しかし、山麓部などの坂道が多い地域では取引が低調で、地価の下落が止まっていません。
商業地:マンション需要が地価を支える
中心市街地や幹線道路沿いなどの利用価値が高い地区では、根強い分譲マンション需要を背景に、高値取引が見られます。
旧来の商店街などは取引が低調ですが、価格的な魅力(値頃感)から取引が見られ、横ばい圏内で推移しています。
八幡西区:黒崎・折尾の強力な再開発効果
八幡西区は、北九州市内で最も高い上昇率を示しており、その原動力は「コクラ・クロサキリビテーション」と折尾駅の土地区画整理事業です。
住宅地:黒崎~折尾駅の便利な平坦地が超人気
住宅地平均変動率は+2.8%と、高い上昇率を維持しています。
特に、JR黒崎駅~折尾駅のエリアで平坦部に位置し、住環境・利便性が良い住宅地は、戸建て・分譲マンション用地ともに需要が非常に堅調で、高値取引も目立ちます。
商業地:容積率アップと折尾駅再開発の相乗効果
商業地平均変動率は+4.9%ですが、前年の+6.4%からは上昇率がやや落ち着きました。
JR黒崎駅周辺の商業地域では、分譲マンション用地への需要が非常に強く、地価上昇を促しています。
中でも注目は、黒崎地区の一部で昨年3月に指定容積率の緩和(最大800%)が決定されたことです。今年に入り、容積緩和を適用した分譲マンションの建築が着工しており、これが地価を力強く後押ししています。
また、折尾駅の土地区画整理事業の整備が進む折尾駅周辺も同じような傾向にあり、黒崎の容積率アップと折尾の利便性向上がタッグを組み、八幡西区全体の地価を牽引しています。
まとめ:都市再生(リビテーション)と「選ばれる土地」の時代へ
今回のR7地価調査の結果は、北九州市全体で「利便性が高く、住みやすい平坦地」に、ものすごい勢いで需要が集中していることを示しています。
二極化は、今後もますます進むでしょう。
小倉北区の「コクラ・リビテーション」第二弾の具体化、そして八幡西区の「クロサキ・リビテーション」の核である黒崎駅周辺の容積率の緩和や折尾駅の土地区画整理事業の進展は、今後の地価を大きく左右します。
これらの都市の機能強化は、人口流入を呼び込むと考えます。
都心部の商業地では、分譲マンションの価格高騰で売れ行きが長期化する懸念も出ていますが、これは需要がなくなったわけではなく、地価と建築費の高騰という大きな課題に直面している証拠です。
私たち不動産鑑定士は、これらの大規模な変化と、人々の住環境に対する考え方の変化をしっかり見据えながら、公正な評価を続けてまいります。
北九州市のリビテーションに今後も注目です!
以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑
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