
こんにちは、不動産鑑定士の上銘(じょうめい)です。
企業の経理・財務担当の皆様、あるいは経営者の皆様。
決算シーズンが近づくと、監査法人や公認会計士の先生からこんなことを聞かれませんか?
「御社の『賃貸等不動産』の時価、今年は洗い替えが必要ですね。注記の準備はできていますか?」
「えっ、簿価(帳簿価格)じゃダメなの?」
「時価って言われても、どうやって出せばいいの? 路線価じゃダメ?」
そんな疑問を持たれる方も多いと思います。
貸借対照表(BS)には載らないけれど、投資家や銀行が厳しくチェックしているのが、この「賃貸等不動産の時価情報」です。
今日は、企業会計基準(ASBJ)でも定められているこのルールについて、実務の現場でどう対応するのが正解か、私たち鑑定士の視点から「ぶっちゃけ話」を交えて解説します。
1. そもそも「賃貸等不動産」とは何か?
難しい言葉に見えますが、定義はシンプルです。
企業が持っている不動産のうち、「賃貸収益(家賃)」や「キャピタルゲイン(値上がり益)」を目的として保有している物件のことです。
【該当するものの例】
- 第三者に貸しているオフィスビルやマンション
- 将来の値上がりを期待して持っている更地
- 現在は使っていない遊休地(将来の用途が決まっていないもの)
【該当しないもの】
- 自社で使っている本社ビルや工場(※これは「事業用不動産」)
- 不動産会社が販売目的で持っている在庫(※これは「棚卸資産」)
要は、「本業の活動場所として使っているわけではなく、投資や運用として持っている不動産」のことですね。
2. なぜ「時価の注記」が必要なのか?
日本の会計基準では、不動産は基本的に「取得原価(買った値段)」から減価償却費を引いた金額(簿価)で計上されます。
これを「原価法」と言います。
しかし、不動産の価格は生き物です。
例えば、30年前に1億円で買った銀座のビル。今の帳簿上の価値(簿価)が1,000万円になっていたとしても、実際の市場価値(時価)は10億円になっているかもしれません。
実際、不動産大手の三菱地所は賃貸等不動産の時価を開示しており、含み益が5兆円を超えています!
逆に、バブル期に買ったリゾート地が、簿価1億円のままなのに、実際には二束三文ということもあります。
この「帳簿(簿価)」と「現実(時価)」のズレ(=含み益・含み損)を開示しないと、投資家や銀行は、その会社の本当の資産価値を判断できません。
だからこそ、「BSの数字は書き換えなくていいけど、『注記』として本当の時価を欄外に書いてね」というルール(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準)があるのです。
3. 「自社で計算」か「鑑定士に依頼」か? 判断のボーダーライン
ここが皆様の一番の悩みどころだと思います。
「全ての物件で、不動産鑑定士の高い報酬を払って鑑定書を取らないといけないの?」
結論から言うと、「全てではありません」。
会計基準でも、重要性が乏しいものについては簡易的な評価が認められています。
実務上は、以下のように使い分けるのが一般的です。
A. 自社で算定してOKなケース(重要性が低い)
金額が小さく、会社全体の資産に与える影響が少ない場合です。
この場合、合理的な指標を用いて社内で計算することが認められるケースが多いです。
- 固定資産税評価額 ÷ 一定の率
- 路線価 × 面積
- 公示地価の変動率をスライドさせる
これならコストはかかりません。
B. 鑑定士に依頼すべきケース(重要性が高い)
一方で、以下のような場合は、プロの「不動産鑑定評価書」が必要になります。監査法人からも強く求められるはずです。
- 金額的・質的重要性が高い物件
- 会社を代表するような大型ビルや、資産総額の大きな割合を占める物件。
- 時価の変動が激しいとき
- 再開発エリアにある、最近の相場変動が激しい、または近隣で大きな取引があった場合。
- 権利関係が複雑な場合
- 借地権がついている、共有持分である、土壌汚染の疑いがあるなど、単純な路線価計算では価値が出せない場合。
- 「含み益」を正確にアピールしたい場合
- 簿価ではなく、不動産の時価を明示することにより、金融機関や投資家に対して、企業価値をアピールできます。
4. 鑑定士を入れるメリットは「コスト」以上の価値がある
「鑑定依頼はコスト(経費)」と考えられがちですが、実は「戦略的な投資」でもあります。
① 正確な時価把握による信用力アップ
特に「含み益」がある場合、路線価などの簡易計算では、建物の付加価値や収益性(稼ぐ力)まで反映しきれず、実際の価値より低く見積もられてしまうことが多々あります。
鑑定士が収益還元法(DCF法など)を用いて詳細に評価することで、「実はもっと価値がある」ことを証明でき、金融機関や投資家への強力なアピール材料になります。
② 減損会計のリスクヘッジ
逆に「含み損」が出そうな場合。
簡易計算でざっくり「価値が半分になった」と判定されると、強制的に減損処理(特損計上)を迫られるリスクがあります。
しかし、鑑定士が個別に調査すると、「実は開発ポテンシャルがある」「賃料相場は上昇傾向にある」などのプラス要因が見つかり、減損を回避できる(あるいは損失額を抑えられる)ケースも少なくありません。
5. まとめ:決算直前に慌てないために
「賃貸等不動産」の時価評価は、単なるルール対応の事務作業ではありません。
自社の資産内容を正確に把握し、対外的に説明するための重要な「経営情報」です。
- 重要性が低い物件は、コストを抑えて自社算定(または簡易評価)。
- 重要な物件や、判断が難しい物件は、しっかり鑑定士を入れる。
このメリハリをつけることが、賢い実務の進め方です。
当事務所では、「どの物件を鑑定すべきか?」「自社算定で通すためのロジックはどう組めばいいか?」という段階からのご相談も承っています。
決算間際になって「監査法人からNGが出た!来週までに鑑定書が必要!」と慌てる前に、ぜひ一度ご相談ください。
正確な時価を知ることは、守り(コンプライアンス)だけでなく、攻め(CRE戦略・融資交渉)の第一歩になります。
以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
この記事の執筆者

不動産鑑定士 上銘 隆佑
Ryusuke Joumei
上銘不動産鑑定士事務所代表。
大和不動産鑑定株式会社東京本社に入社し、2019年に不動産鑑定士登録(第10401号)。国内系不動産アセットマネジメント会社への出向を経て、大和不動産鑑定株式会社九州支社へ赴任。
適正家賃、関係者間売買、証券化対象不動産、銀行の担保不動産、公有地の売買に係る不動産鑑定評価を中心に、不動産鑑定評価に携わる。
不動産鑑定業 福岡県知事 第(1)-347号
info@jkantei-office.com
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