【深掘り】霞ヶ関ホテルリート投資法人の旗艦物件「seven x seven 石垣」│賃料形態や利回りについて

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【執筆・監修】不動産鑑定士 上銘 隆佑
上銘不動産鑑定士事務所 代表

目次

はじめに│ホテルリートが注目する石垣島の魅力

seven x seven石垣
霞ヶ関ホテルリート投資法人IPO資料より

コロナ禍の終息以降、不動産投資市場において、ホテルを投資対象とするJ-REIT(不動産投資信託)が注目を集めています。

その中でも、霞ヶ関ホテルリート投資法人は、国内外の観光需要を背景に、魅力的なホテル物件を組み入れ、2025年8月に新規上場をします。

今回、特に深掘りしたいのが、同投資法人の旗艦物件の一つである「seven x seven 石垣」です。

IPO資料に記載の通り、投資法人としての賃料収入のうち、36.3%を占める大黒柱です!

霞ヶ関ホテルリート投資法人
霞ヶ関ホテルリート投資法人IPO資料より

「seven x seven 石垣」は、美しい自然と豊かな文化が息づく沖縄県石垣島に位置し、観光客からの高い支持を得ています。

本稿では「seven x seven 石垣」の具体的な特徴から、ホテルリートにおける賃料形態や利回り、そして鑑定NOIといった部分まで、不動産鑑定士の立場から書きたいと思います。

「seven x seven 石垣」の概要│リゾートの新たな拠点

まずは、「seven x seven 石垣」がどのようなホテルなのか、その特徴から見ていきましょう。

同ホテルは、石垣島の豊かな自然と観光資源を最大限に活かした宿泊施設として霞ヶ関キャピタル株式会社により設計されています。

抜群の立地とアクセス

石垣
霞ヶ関ホテルリート投資法人IPO資料より

「seven x seven 石垣」は、沖縄県石垣市に位置し、観光客にとって非常に便利な立地を誇ります。

新石垣空港からは車で約18分というアクセスの良さで、到着後すぐにリゾート気分を味わうことができます。

また、太平洋に面したマエサトビーチへのアクセスも良く、美しい海でのアクティビティや散策を手軽に楽しむことが可能です。

さらに、この物件の周辺には大型スーパーマーケットがあり、長期滞在を計画しているお客様にとっては、食材の買い出しにも非常に便利です。

観光だけでなく、まるで暮らすように滞在できる環境が整っている点は、他のリゾートホテルにはない大きな強みと言えます。

多彩な客室タイプと充実した設備

このホテルの魅力の一つは、多彩な客室バリエーションです。

石垣
霞ヶ関ホテルリート投資法人IPO資料より
  • 21タイプに分かれた客室:宿泊者の様々なニーズに応えられるよう、21種類もの客室タイプが用意。一人旅からカップル、ファミリー、グループ旅行まで、あらゆる層へ対応可能。
  • 全室テラス付き:全ての客室にテラスが設けられており、石垣島の豊かな自然や美しい海を眺めながら、開放的な時間を過ごすことができる。
  • プライベートルーム・サウナ付きスイートルーム:100㎡を超える広々としたプライベートルームや、プライベートサウナ付きのスイートルームがある点に注目。より贅沢な滞在を求める富裕層や、特別な記念日を過ごしたい方に訴求力がある。

客室だけでなく、ホテル全体にわたる充実した設備も、宿泊者の満足度を高める要因となっています。

  • 2種類のプール:屋外と屋内にそれぞれプールが設置されており、天候に左右されずに水辺でのリラックスタイムを楽しめる。
  • レストランと地下のバー:食事を提供するレストランに加え、夜には落ち着いた雰囲気で過ごせる地下のバーも完備。滞在中の食事やエンターテイメントをホテル内で完結できるため、利便性が向上。
  • フィンランドサウナ:リラックス効果の高いフィンランドサウナも設置されており、日頃の疲れを癒し、心身ともにリフレッシュできる空間を提供。

滞在そのものを楽しむことができる「目的地型のホテル」としての価値が高いです。

富裕層向け客室があるのも、このインフレ情勢の中では重要ですね!

ホテルリート投資法人の賃料形態:安定と成長のバランス

ホテルリート投資法人がホテル物件に投資する際、賃料形態は非常に重要な要素となります。

投資家への分配金の安定性や成長性に直結するためです。

一般的に、ホテルリートの賃料形態には「固定賃料」と「変動賃料」の組み合わせが多く見られます。

固定賃料とは

固定賃料とは、その名の通り、毎月一定額が支払われる賃料のことです。

ホテルの稼働状況や収益に関わらず、賃貸借契約で定められた金額がオーナー(リート)に支払われます。

  • メリット:オーナーであるリート側から見ると、収入が安定している点が最大のメリットです。市場の変動やホテルの業績に左右されにくいため、投資家への安定した分配金支払いを計画しやすくなります。特に、開業初期や市場が不安定な時期には、この安定性が大きな安心材料となります。
  • デメリット:ホテルの業績が非常に好調で、想定以上の収益を上げた場合でも、固定賃料部分からはそれ以上の収入増加は見込めません。そのため、市場の成長やホテルのポテンシャルを十分に享受できない可能性があります。

変動賃料とは

一方、変動賃料とは、ホテルの売上高や営業利益に連動して変動する賃料のことです。

一般的には、売上高の一定割合や、GOP(営業利益)が特定の水準を超えた場合に支払われる追加賃料として設定されます。

  • メリット:ホテルの業績が好調であれば、オーナーであるリート側の収入も増加します。これにより、市場の成長やホテルの収益性向上を直接的に分配金に反映させることができ、投資家へのリターン増加が期待できます。インフレが進む状況では、物価上昇に伴う売上増加が賃料に反映されるため、インフレヘッジとしての機能も果たします。
  • デメリット:ホテルの業績が不振に陥った場合、賃料収入も減少するリスクがあります。市場の変動や予期せぬ事態(災害、パンデミックなど)が発生した際には、収入が不安定になる可能性があります。

「seven x seven 石垣」における賃料形態│固定賃料は坪19,017円

霞ヶ関ホテルリート投資法人の場合、「seven x seven 石垣」はこの固定賃料と変動賃料を組み合わせた賃料形態を採用しています。

ただし、IPO時はほぼ固定賃料が100%となっています(マスターリース形式で霞ヶ関キャピタル株式会社が4年保証のイメージ)。

石垣
開示資料より筆者作成

開示資料によれば、4年経ってから変動賃料が発生するようなイメージです。

正確には、霞ヶ関キャピタル株式会社との転貸借契約が4年後に切れて、fav hospitality group 株式会社から「固定+変動」で賃料収入が発生します。

鑑定NOIは、長期的な収入を査定していますので、この転貸借契約が切れた後についても、同程度の収入発生を見込んでいるはずです(注:潜在的なリスクとしては、変動賃料が思ったよりも貰えずに評価額下落、が考えられます)。

石垣
開示資料より筆者作成

現状の固定賃料は年1,173,624,000円(坪単価19,017円)と、リゾート地の賃料相場からするとかなり良い賃料設定になっています(主観では坪15,000円を超えれば十分な収益性です)。

安定した収益基盤を確保しつつ、ホテルの成長性や石垣島の観光市場のポテンシャルを今後享受するための戦略と言えます。

石垣島のような観光地では、季節性やイベント、あるいは国内外の情勢によって観光客数が大きく変動します。

このような環境下で、固定賃料と変動賃料のバランスは、リートのポートフォリオ全体の安定性と成長性の両立を図る上で、非常に重要な役割を担っているのです。

利回り(NOI利回り)と鑑定NOI│投資価値の評価

不動産投資、特にリート投資において、物件の投資価値を測る上で欠かせないのが「利回り」という指標です。

そして、その中でも特に重要視されるのが「NOI利回り」と、不動産鑑定評価における「鑑定NOI」です。

利回りとは何か

利回りとは、投資額に対してどれだけの収益が得られるかを示す割合のことです。

不動産投資においては、年間賃料収入を物件の取得価格で割って算出されることが一般的。

しかし、ホテルリートのような事業用不動産の場合、単に賃料収入だけでなく、物件の運営にかかる費用も考慮に入れる必要があります。

NOI(Net Operating Income)の解説

不動産の収益性判定で重要なのがNOI(Net Operating Income)、日本語では「純収益」と呼ばれる指標です。

NOIは、不動産から得られる総収入から、その不動産の運営にかかる費用(固定資産税、維持管理費、損害保険料など)を差し引いたものです。

ただし、減価償却費や借入金の利息、法人税などは引きません(分配金算定の際に引きます)。

このNOIを物件の取得価格で割ったものがNOI利回りとなり、不動産の収益性を評価する上で非常に重要な指標となります。

NOI利回りが高ければ高いほど、その不動産は収益性が高いと判断されます。

「seven x seven 石垣」は築浅で、運営実績が開示されていないため、現在は不明です(不動産鑑定士による査定数値は下記の通り)。

鑑定NOIの役割と重要性

不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行う際、収益還元法という手法を用います。

この収益還元法で用いられるのが「鑑定NOI」です。

鑑定NOIとは、対象不動産が将来にわたって生み出すであろうと予測される純収益を、不動産鑑定評価基準に基づいて算定したものです。

鑑定NOIの算出にあたっては、単に過去の実績だけでなく、将来の市場動向、競合物件の状況、物件の特性などを総合的に考慮し、専門的な知見に基づいて適正な純収益が予測されます。

霞ヶ関ホテルリート投資法人IPO資料より
  • 鑑定NOIの重要性
    • 客観的な価値評価:鑑定NOIは、不動産鑑定士という第三者の専門家が客観的に算定したものであり、その不動産の適正な収益力を示す指標となります。
    • 投資判断の根拠:ホテルリートが物件を取得する際や、保有物件の価値を評価する際に、鑑定NOIは重要な判断材料となります。投資家にとっても、鑑定評価書に記載された鑑定NOIは、その物件の収益性や投資価値を判断する上で信頼できる情報となります。
    • 賃料交渉の根拠:もし将来的に賃料交渉が必要になった場合、鑑定NOIの推移や、鑑定評価で示された適正賃料は、賃料改定の強力な根拠となり得ます。オーナー目線では、鑑定NOIが低下傾向にある場合、賃料増額の必要性を訴える材料にもなり得ます。

霞ヶ関ホテルリート投資法人のようなJ-REITは、投資家から資金を集めて不動産に投資し、その賃料収入を分配金として還元します。

そのため、投資対象となるホテルのNOI利回り鑑定NOIは、投資家への説明責任を果たす上でも、非常に重要な意味を持つ指標なのです。

「seven x seven 石垣」は鑑定NOI利回りは5.6%であり、リゾート型ホテルとしては適正な水準にあるといえます(平均で5%~6%ほどでしょうか)。

オーナー目線で見る投資の魅力と課題

霞ヶ関ホテルリート投資法人のようなオーナー目線で「seven x seven 石垣」への投資を考えると、その魅力と同時に、いくつかの課題も見えてきます。

安定収益と成長期待

「seven x seven 石垣」のような物件は、ホテルリートにとって非常に魅力的な投資対象です。

  • 安定した賃料収入:固定賃料部分により、一定の安定した賃料収入が期待できます。投資家への安定的な分配金支払いの基盤が確保されます。
  • 変動賃料による成長期待:石垣島の観光市場の成長や、ホテルの運営努力による稼働率・客単価の向上が、変動賃料としてリートの収益に直接反映されるため、分配金の成長も期待できます。

インフレや固定資産税上昇の影響

一方で、不動産オーナーとして避けて通れないのが、インフレや固定資産税の上昇といった課題です。

  • 固定資産税の上昇:土地価格の上昇や建築費の高騰は、固定資産税評価額を押し上げ、結果としてオーナーが支払う固定資産税が増加します。オーナーの手元に残る純収益(NOI)を圧迫する要因となります。賃料形態が固定賃料の割合が高い場合、この税負担増を賃料に転嫁しにくいという課題も生じます。
  • インフレによるコスト増:物価上昇は、ホテルの運営費用(維持管理費、人件費、光熱費など)も押し上げ、NOIを圧迫する要因となります。変動賃料の仕組みがあれば、売上高の増加を通じてある程度ヘッジできますが、コスト増が売上増を上回る場合は収益性が低下する可能性があります。

これらの課題に対し、リートはホテル運営会社との連携を密にし、コスト削減や収益最大化のための施策を共同で行うことが求められますね!

今後の展望

「seven x seven 石垣」は、優れた立地と充実した施設、そして石垣島の観光市場の成長性を鑑みると、霞ヶ関ホテルリート投資法人にとって、今後も安定した収益と成長をもたらす重要な物件といえます。

リートとしては、固定資産税やインフレによるコスト増といった外部環境の変化に適切に対応しつつ、ホテル運営会社との良好なパートナーシップを維持し、ホテルの魅力を最大限に引き出す努力を続けることが求められます。

特に、近年はリートへのTOB(阪急阪神リートなど)が増えていますので、投資家の目が厳しくなっている印象です。

まとめ│安定と成長を追求するホテルリート投資

本記事では、霞ヶ関ホテルリート投資法人の旗艦物件「seven x seven 石垣」を深掘りし、その魅力とホテルリート投資における賃料形態、利回りの考え方、そしてオーナーが直面する課題について書きました。

「seven x seven 石垣」は、新石垣空港からのアクセス、マエサトビーチへの近接性、周辺の利便性といった優れた立地条件に加え、全室テラス付きの多彩な客室、プライベートサウナ付きスイートルーム、2種類のプールやレストラン・バーといった充実した設備を持つ、非常に魅力的なリゾートホテルです。

固定賃料で安定した収益基盤を確保しつつ、変動賃料でホテルの成長性を享受する組み合わせは、投資家への魅力的なリターンにつながります。

また、NOI利回りや鑑定NOIといった指標は、物件の収益性を客観的に評価し、投資判断の重要な根拠となります。

コロナ禍以降、ホテルに投資したい投資家は多いので、霞ヶ関ホテルリート投資法人の物件と、今後追加されるであろう物件にも注目です!


以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑

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霞ヶ関ホテルリート投資法人が新規上場│特徴と他のホテル特化型リートとの比較 - 上銘不動産鑑定士事務所 へ返信する コメントをキャンセル

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