
筑紫野市は福岡都市圏の南端に位置し、福岡市中心部へのアクセスが良好なことから、住宅地として根強い人気を持つエリアです。
令和7年の地価公示(R7.1.1時点)においても、その地価動向は住宅地・商業地ともに高い伸び率を示しており、福岡県内の近郊都市の中でも比較的注目度の高い地域といえます。
この記事では、不動産鑑定士の視点から、筑紫野市の地価動向を住宅地・商業地の両面から分析しつつ、地域の特徴や注目エリア、今後の動向について書いていきます。
住宅地の地価動向│戸建もマンションも堅調。ただし価格上昇はやや鈍化の兆し
R7住宅地の平均変動率は+5.0%に。前年より伸び幅はやや縮小
令和7年の筑紫野市における住宅地の平均変動率は+5.0%となりました。令和6年の+8.6%と比べるとやや伸び幅は縮小していますが、依然として強い上昇傾向を保っています。
この背景には、戸建住宅・分譲マンションいずれにおいても開発が継続しており、特に利便性の高い駅周辺部では堅調な需要が継続していることが挙げられます。
二日市西・二日市北エリアでの戸建需要が堅調
戸建住宅については、「二日市西」や「二日市北」といった住宅地で小規模な宅地の開発や分譲が多数見られます。
これらのエリアでは、敷地規模を30坪前後に抑えることによって購入総額を抑えながらも、分譲単価(1坪あたり)は高めで推移している傾向があります。
いわゆる「ミニ開発」による効率的な土地利用が進んでおり、周辺環境の良さや駅までの距離、学校区の人気なども相まって、分譲戸建ての売れ行きは堅調です。
とくに、天拝中学校・二日市小学校区に属する地域は、子育て世代を中心とした支持が根強く、価格上昇を後押ししています。
分譲マンションは駅近立地が中心。朝倉街道駅、西鉄二日市駅が注目スポット
分譲マンションの動きも活発です。
朝倉街道駅・西鉄二日市駅のいずれも徒歩10分圏内で、複数のマンションが建築中、あるいは分譲中となっており、その販売も順調に進んでいます。
福岡市および隣接エリアと比較した際の「価格の相対的な割安感」が背景にあり、若年層のファミリーや、福岡市内での価格高騰に直面した転居検討層が、筑紫野市に流入するという構図が見られます。
なお、イオンモール筑紫野やゆめタウン筑紫野などの大型商業施設が揃っており、生活利便性が非常に高い点も、分譲マンション需要を支えているポイントです。
住宅価格は限界に近づきつつある?今後の注目ポイント
ただし、住宅価格(戸建・マンションとも)が主たる需要層の「購入可能額の限度」に近づいている、という指摘もあります。
とくに新築物件の価格帯が4,000万円前後に達しており、住宅ローンの金利上昇リスクが現実味を帯びてきた今、価格の伸びにはやや陰りが見え始めている状況です。
これからの注目ポイントは、「いかに価格帯を抑えつつ、質を維持できるか」や「中古市場の動き」がどう変化するかといったところに移っていくでしょう。
商業地の地価動向│駅周辺とロードサイドが2本柱。住居系用途も地価上昇を後押し
R7商業地の平均変動率は+7.8%。駅周辺と幹線道路沿いが強い
令和7年における商業地の平均変動率は+7.8%と、住宅地を上回る上昇率となりました。令和6年の+10.0%からはやや伸びが緩やかになったものの、それでも県内近郊都市の中では高い水準を維持しています。
商業地のなかでも特に注目されるのは、西鉄二日市駅や朝倉街道駅の周辺エリアで、ここでは小規模な事業用地が高値で取引される例が目立っています。
県道31号線・112号線沿いのロードサイド型店舗が主流
新規の商業施設やテナント出店は、主に県道31号線および県道112号線といった幹線道路沿いに集中しています。
これは、自動車アクセスが良好なこと、視認性の高い立地であることから、飲食店・ドラッグストア・小売系チェーンなどの需要が継続しているためです。
実際に、シュロアモール筑紫野にはユニクロ、カルディといった人気店舗が出店を果たしており、シュロアモール筑紫野にもロピアがあります。
人気店舗は、エリア全体の商業地価を下支えする役割を果たしています!
特にロピアはテレビでも取り上げられることが多く、福岡県内に少ないので、集客力が高いです。
マンション建築が進むことで商業地にも波及効果
興味深いのは、商業地にも関わらず「住居用途(分譲マンション)」として活用される例が増えている点です。
特に準幹線道路沿いや、駅から徒歩圏内の立地では、住宅系マンションの建設が見られ、これが結果的に土地需要を押し上げ、商業地の地価をも上昇させる要因となっています。
用途混在型の開発や、店舗併設型の住宅マンションなど、柔軟な土地利用が進んでいることも、筑紫野市の都市形成の特徴と言えるでしょう。
地域別・用途別に見る注目エリア
湯町・二日市温泉エリア
温泉地として知られる二日市温泉は、観光地としての魅力だけでなく、定住エリアとしての価値も高まりつつあります。
近年は、旅館跡地や老朽建物をリノベーションしたカフェ・ゲストハウスの開業なども見られ、エリアの再評価が進んでいます。
観光と居住が共存するエリアとして、今後の展開にも注目です。
天拝山・天拝中学校区
天拝山の自然に近接し、教育環境にも恵まれている天拝中学校区は、ファミリー層を中心に人気が高いエリアです。
市内でも比較的落ち着いた環境が整っており、分譲戸建・建売物件ともに安定したニーズがあるのが特徴です。
また、近年は市外からの移住層の流入も見られ、広域的な視点からもポテンシャルを評価されつつあります。
イオンモール筑紫野周辺
大型商業施設「イオンモール筑紫野」や「ゆめタウン筑紫野」が立地するエリアは、平日・週末問わず人通りが多く、商業地としての価値も高い一方で、徒歩圏内に居住可能な住宅地も点在しており、利便性と住環境のバランスが非常に良好です。
このエリア周辺では、ファミリー向けマンションや分譲住宅の販売も活発に行われており、今後の開発にも注目が集まります。
今後の展望と地価の見通し
筑紫野市は福岡都市圏の中でも、「住みやすさ」と「利便性」、さらには「価格の相対的な割安感」が揃ったエリアとして、今後も一定の需要が見込まれます。
しかし、全国的な傾向として、住宅価格の高騰と金融引締めによる購買力の低下が進めば、地価の上昇トレンドにもブレーキがかかる可能性は否定できません。
また、郊外部においては高齢化や人口減少に起因する空き地・空き家問題が顕在化しつつあり、都市計画的な調整も求められるフェーズに入ってきています。
一方で、都市中心部や駅近立地においては、依然として強いニーズが存在しており、二極化の傾向は今後も継続することが予想されます。
まとめ
筑紫野市における地価の上昇は、単なる相場の上振れではなく、交通利便性や生活インフラの充実、周辺環境の良さといった「実需」によって支えられたものです。
特に住宅地においてはファミリー層の支持が厚く、商業地では複合利用や再開発の動きも活発化しています。
R7地価公示に見るように、地価上昇はやや鈍化の傾向があるものの、相対的には福岡県内でも有望なエリアの一つとして、今後も注目を集めることは間違いなさそうです。
土地の購入や開発を検討される方は、エリアの特性や将来性を踏まえたうえで、慎重かつ戦略的な判断が求められる時期に来ていると考えています!
以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑
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