
はじめに│令和7年も地価好調。オフィスとホテルが牽引役。
令和7年の地価公示では、福岡県の商業地が10年連続で上昇を記録しました。
平均変動率は+6.5%となり、前年の+6.7%からやや上昇率は縮小したものの、堅調な需要を背景に依然として強い地価の動きが見られます。
特に福岡市では新築オフィスの供給が続き、賃料上昇を伴う需要が続いており、インバウンド回復によるホテル需要も加わって、福岡の地価を下支えしています。
この記事では、不動産鑑定士の視点から、福岡県の商業地についてエリア別に地価の動きと背景要因を丁寧に解説していきます。
福岡県全体の商業地動向
福岡県全体の商業地の平均変動率は+6.5%となり、前年に比べてやや鈍化しましたが、堅調な地価上昇が続いています。
特に、利便性の高い駅近のエリアでは、マンション用地としての需要と競合することで、商業地でも地価が高止まりする傾向が見られました。
郊外型商業施設用地についても、業績の良い企業や業態による出店意欲が引き続き強く、また物流機能を持った事業所用地としての需要も地価を支える要因となっています。
ただし、業種によっては節約志向の影響でやや足踏みが見られるケースもあり、家電量販店やホームセンターなど一部業態では出店の慎重さがうかがえました。
福岡市の動向と再開発の影響
福岡市の商業地は13年連続で地価が上昇し、今回の地価公示では平均変動率+11.3%を記録しました。
前回の+12.6%からは上昇率が縮小しましたが、これは極端な加熱感がやや落ち着いたという意味合いであり、需給バランスとしては依然としてタイトな状況が続いています。
区別の動向
各区の変動率を見ると以下のようになっています。
- 東区 +12.6% → +12.5%
- 博多区 +13.8% → +11.2%
- 中央区 +13.2% → +11.4%
- 南区 +8.6% → +9.6%
- 西区 +11.8% → +11.2%
- 城南区 +13.3% → +11.7%
- 早良区 +12.7% → +12.7%
南区や早良区では上昇率が維持または拡大していますが、他の区ではやや縮小傾向が見られます。
オフィス市場の現状
博多コネクティッドや天神ビックバンなどの再開発が進む中、最新仕様のオフィスビルが供給され、空室率は一部で上昇傾向にあるものの、全体としては堅調な需要が続いています。
博多駅周辺では空室率の低下に伴って賃料も上昇基調にあり、アップグレード移転を進める企業の動きも活発です。
一方で、新築ビルの大量供給が今後予想されることから、中央区や博多区では地価上昇率が若干抑制されている側面もあります。
賃料水準の天井感や、取引利回りのさらなる低下に期待が持てないという投資家心理も、地価の動きに影響しています。
都心型商業地と百貨店売上
福岡市の中心部では、インバウンド客の回復と富裕層による高額品消費が売上を押し上げており、都心型商業地に対するテナント需要は引き続き堅調です。
2024年の全国百貨店売上高において、福岡市内の主要百貨店4店は過去最高を更新するなど、商業地のポテンシャルの高さを感じさせる結果となりました。
こうした動きは、地価の安定した上昇を支える大きな要素となっています。
ホテル需要と稼働率の回復
福岡市ではインバウンド観光客の急増により、ホテルの稼働率がコロナ禍前の水準まで回復しています。
実際の稼働率はおおむね8割前後で推移しており、ホテル用地への投資意欲も高まってきています。新規のホテル開発やリノベーション計画も活発に行われており、用地取得に動く企業も増えてきました。
韓国や中国、香港、台湾、アメリカなど、主要なインバウンド市場からの訪問客はコロナ禍前の水準を大幅に上回っており、ホテル需要を今後も押し上げる可能性があります。
北九州市の動向と再開発
北九州市では、平均変動率が+3.6%から+3.9%へと拡大し、4年連続の上昇率拡大となりました。
なかでも八幡東区や八幡西区、小倉北区での地価上昇が目立ちます。
小倉駅前では「コクラ・クロサキリビテーション」の第一弾として開発された「BIZIA KOKURA(ビジア小倉)」が竣工し、日本IBMなどIT企業が入居しています。
このように、従来の製造業中心から知的産業へのシフトが徐々に進んでおり、オフィス用地としての魅力が高まりつつあります。
小倉北区では人口減少に歯止めがかかっており、都心回帰の影響も受けて、マンション用地の競争が激化しています。
これに伴い、商業地の地価も安定した上昇を見せています。
久留米市と大牟田市の対照的な動き
久留米市では、平均変動率が+4.9%から+5.5%へと拡大しました。
西鉄久留米駅周辺では、駅ビルのリニューアルにより「レイリア久留米」が開業し、集客力のある商業施設として高評価を受けています。
この影響で、駅周辺の商業地も高い地価上昇率を示しています。
マンション需要も堅調であり、住宅地と商業地が隣接するエリアでは土地の争奪戦も見られるほどです。
一方、大牟田市は平均変動率が-0.2%で30年連続の下落となりました。
新たなオフィスや商業施設への投資意欲は乏しく、マンション需要もほとんどない状況が続いています。
ただ、TSMC関連の企業進出が具体化してきており、その波及効果による地価の下支えに期待が持たれています。
古賀市や太宰府市など、注目される市町村
古賀市では、平均変動率が+9.7%から+14.8%へと大幅に上昇し、県内最高の上昇率となりました。
幹線道路沿いの住宅地の上昇に加えて、近年は商業地でも高値の取引が目立っており、商業施設開発への期待感も広がっています。
また、太宰府市も+11.7%から+11.8%と高い上昇率を維持しました。
太宰府天満宮周辺では観光客の回復が顕著で、特に参道沿いの地点では+13.7%の上昇率を記録するなど、インバウンドの恩恵を最も受けたエリアの一つとなっています。
まとめ│地価の牽引役はオフィスとホテルが担う。
令和7年の地価公示では、福岡県の商業地は引き続き堅調な地価上昇を記録しました。
福岡市を中心に、オフィス・ホテル・商業施設への需要が根強く、再開発やインバウンドの回復がその動きを後押ししています。
一方で、供給過剰への警戒感や利回り低下の限界も見え始めており、今後はより立地や用途に応じた精緻な評価が求められる時代になっていくことは間違いありません。
地価の推移をしっかりと把握しつつ、数字だけでは読み取りづらい“街の動き”を、しっかりと不動産鑑定に織り込んでいきたいと考えています。
以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑
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