【解説】地価で見る糸島市│令和7年は住宅地・商業地ともに上昇、幹線道路沿い店舗が攻勢(R7地価公示)

不動産鑑定士の写真

【執筆・監修】不動産鑑定士 上銘 隆佑
上銘不動産鑑定士事務所 代表

福岡県の西の端にある糸島市は、海や山の自然に恵まれたロケーションと、福岡市の中心部まで電車で通えるアクセスの良さが魅力のエリアです。

ここ数年で、「住みたい街」として注目度がグッと高まり、特にコロナ禍をきっかけにその流れが加速しました。


リモートワークが当たり前になったことで、「都会のすぐそばで、自然を感じながら暮らしたい」「子育てはもっと広々とした環境でしたい」といった声が増え、実際に多くの方が糸島に移り住むようになっています。

こうした動きに伴い、令和7年の地価公示では、住宅地・商業地ともに地価が上昇しました。


今回は、不動産鑑定士としての視点から、そうした地価上昇の背景やエリアごとの特徴、実際の価格帯などをわかりやすくお伝えしていきたいと思います。

目次

糸島市の住宅地地価は、コロナ禍を機に一気に上昇

まず、住宅地の変動率を見てみると、令和7年は「+4.9%」。前年の「+5.6%」よりは少し鈍化していますが、依然として強い上昇基調が続いています。

背景にあるのは、やはりコロナ禍でのリモートワークの定着です。都市部のマンションより、自然環境のある場所でのびのび暮らしたいというニーズが増えたことから、「広めの戸建てを建てたい」という問い合わせが一気に増えました。

特に人気を集めたのが、JR筑肥線の「筑前前原駅」〜「波多江駅」間の徒歩圏エリア。駅チカの利便性に加え、まだ土地価格が福岡市内よりは手頃だったことから、需要が集中しました。

その結果、2020年頃には、坪単価で35〜40万円前後の取引が多く見られ、土地価格は高騰。まさに“特需”の様相を呈しました。


住宅需要は今も継続。ただし分譲地の売れ行きは二極化

ここ1〜2年で、住宅市場の様子も少し変わってきました。大きなポイントは「建築コストの上昇」です。

家を建てる際の建築費が上がってきたことで、「建築条件なしの土地を買って、自由設計で家を建てる」というスタイルは、どうしても予算が合わなくなってきています。

このため、現在は、

  • 50坪程度で1,500〜1,800万円(坪単価30〜35万円) といった価格帯で、土地を探す人の動きが活発になっている
  • 「トータルで家を建てられる価格感」が、購入者にとってのひとつの判断基準になっています。

一方で、郊外の利便性に劣るエリアや分譲地では売れ行きが鈍化しており、エリアによって二極化が進んでいる状況です。


商業地も地価が顕著に上昇。注目は幹線道路沿いと加布里駅エリア

次に、商業地についてですが、令和7年は+10.5%の上昇と、前年(+7.1%)よりも明らかに地価上昇が加速しています。

ただし、これは「駅前の商業地が活発に取引されている」というよりも、幹線道路沿いに広がる郊外型店舗の出店による地価上昇が主な要因です。

特に、以下のような特徴が見られます。

  • 駅前立地では売買事例があまり出ていない
  • 一方、幹線道路沿いでは広めの土地に対する事業用借地の需要が強い
  • 実際に売買ではなく「借地」という形で、店舗や飲食店が進出

さらに注目されているのが、加布里駅周辺の国道沿いです。最近は話題性のあるお店がちらほら出てきており、中心部に比べて地価が割安であることもあって、今後のポテンシャルが期待されています。


住宅・商業地ともに「割安感」が支持されている

糸島市の地価が上昇しているもう一つの理由として、「福岡市中心部に比べて割安」という点があります。

特に福岡市西区や早良区の住宅地価格と比較すると、糸島市の価格はまだ手頃感があり、土地が広めに取れるという点も人気です。

また、背後地に住宅需要がしっかりとあるため、商業地においてもコンビニ・ドラッグストア・クリニックなどの出店が続いており、住宅と商業の相乗効果が地価を支えている構図といえます。


実際の不動産価格レンジ(住宅地)

ここで、実際に糸島市で取引されている不動産価格のレンジを簡単に整理してみます。

土地・戸建(建売)

エリア土地(50坪前後)建物付き建売住宅
筑前前原・波多江駅周辺1,500〜2,000万円3,500〜5,000万円

※人気の駅チカ立地で、建売住宅は4,000万円以上が目安です。

マンション(分譲)

新築マンションは物件数が少ないですが、

  • 3LDKタイプで3,500〜4,500万円 が目安になります。

マンションというよりも、「土地付き戸建」が主流のマーケットであることが、糸島市の大きな特徴です。


今後の展望と課題

糸島市の地価は、今後も利便性の高いエリアでは引き続き強含みで推移すると思われます。

ただし、すでに価格が上がってきている分、購入側の「予算感」や「エリア選び」は、よりシビアになってくるでしょう。

また、建築費の高騰が続くようであれば、「土地だけを買って自由に家を建てる」というスタイルは難しくなってくる可能性もあります。

一方、商業地については「借地ベースの郊外型開発」が今後も継続しそうです。

特に、加布里周辺の幹線沿いには、地元でも「人気店の出店が続けば盛り上がっていきそう」という期待感をよく耳にします。


まとめ

糸島市の地価は、コロナ禍を契機とした住宅ニーズの高まりと、郊外型商業地の進出によって、令和7年も上昇傾向をキープしました。

住宅地については、

  • 人気エリアは今でも価格が強含み
  • 利便性の低いエリアは売れ行きに苦戦

商業地については、

  • 幹線沿いの事業用借地にニーズ集中
  • 加布里エリアに今後の期待が集まっている

という構図が見えてきます。

糸島市は今後も、「暮らしやすさ」と「価格の手頃さ」のバランスを武器に、地価や人口の面でも安定成長を続ける可能性が高いエリアといえそうです。

個人的には、糸島市といえば「牡蠣小屋」。毎年冬になると「白浜家」で牡蠣を食べています。
福岡市内から車で1時間ほどなので、近いのに自然を堪能できてとても好きなエリアです!


以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑

コメント

コメント一覧 (3件)

【解説】地価で見る福岡市城南区│令和7年は住宅地・商業地ともに上昇。分譲マンション好調、特に七隈線各駅の徒歩圏内は堅調(R7地価公示) - 上銘不動産鑑定士事務所│福岡の不動産鑑 へ返信する コメントをキャンセル

目次