固定資産税を賃料改定の理由にできる?│オーナーが考える賃料引き上げの根拠

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【執筆・監修】不動産鑑定士 上銘 隆佑
上銘不動産鑑定士事務所 代表

目次

はじめに:賃料引き上げ、その「正当な理由」とは

こんにちは!不動産鑑定士の上銘です。

不動産オーナーの皆様にとって、賃料の引き上げは悩ましい課題ではないでしょうか。

「できれば賃料を上げたいが、テナントとの関係が悪くなるのは避けたい」「どのような根拠があれば、納得してもらえるのだろうか」と考える方も多いと思います。

賃料引き上げの理由としてよく挙げられるのは、周辺の家賃相場が上昇している場合ですが、もう一つ、オーナーさんの経営に直結する重要な要素があります。それが、物件にかかる「必要諸経費等」の上昇です。

今回は、その中でも特に大きなウェイトを占める「固定資産税」に焦点を当て、なぜその上昇が賃料引き上げの正当な根拠となり得るのかを、積算法の視点から分かりやすく解説していきたいと思います。

賃料計算における積算法と「必要諸経費等」の役割

まず、賃料を考える上でオーナーさんの採算ラインを示す積算法を簡単に振り返りましょう。

積算法は、物件の価値(基礎価格)に、オーナーが期待する年間収益率(期待利回り)を乗じ、さらに物件の維持管理に必要な費用(必要諸経費等)を足し合わせることで、適正な賃料(積算賃料)を算出する手法です。

この計算式は、賃貸経営の健全性を保つための基本原則を表しています。

積算賃料=(基礎価格×期待利回り)+必要諸経費等

賃料交渉や査定の場面で、オーナーさんが経営を維持するための客観的な根拠として、この積算法は非常に有用な手法です。

そして、2025年現在のような固定資産税の上昇局面では、賃料引き上げの鍵として「必要諸経費等」が利用できます。

なぜ「固定資産税」が賃料引き上げの根拠になるのか?

必要諸経費等には、物件の維持管理にかかる様々なコストが含まれます。

その中でも特に、公租公課(固定資産税、都市計画税)は、オーナーさんの意思に関わらず、物件を所有している限り必ず支払わなければならない費用です。

そして、この固定資産税は、地価上昇に伴い上昇傾向にあります。

地価の変動や市町村の財政状況、再開発によるエリア価値の向上など、様々な要因によって固定資産評価額は見直されます。

もし、固定資産税が増加したにもかかわらず賃料を据え置いた場合、どうなるでしょうか。

積算法の計算式を見れば、必要諸経費等が増加するため、オーナーさんが物件から得られる純粋な収益が減少し、当初の期待利回りを維持することができなくなります。

これは、賃貸経営の計画が狂ってしまうことを意味します。

つまり、固定資産税の上昇は、オーナーさんにとって「収益の減少」という直接的な不利益に繋がり、それを回避するために賃料を引き上げることは、経営上の合理的な判断であり、正当な根拠となり得るのです。

実例から考える:年10%以上の固定資産税上昇がもたらす影響

具体的な例を書いていきます。

例えば、近年再開発が進む福岡市商業地に、とある低層店舗を所有しているとします。

このエリアは活況を呈しており、固定資産評価額が上昇しているとしましょう。

  • 物件の基礎価格:2億円(土地+建物)
  • オーナーの期待利回り:年5.0%
  • 当初の必要諸経費等(固定資産税、管理費、修繕費等):年間300万円

この場合、オーナーが確保したい年間収益は、2億円 × 5.0% = 1,000万円 となります。

これに必要諸経費等を加算した、年間の積算賃料は 1,000万円 + 300万円 = 1,300万円 です。

しかし、固定資産評価額が見直され、固定資産税年10%以上上昇し、必要諸経費等が年間350万円になったとします。

当初の賃料 1,300万円 を据え置くと、オーナーさんの手元に残る収益は 1,300万円 - 350万円 = 950万円 となり、期待していた純賃料 1,000万円 を下回ってしまいます。

この場合、オーナーさんが期待利回りを維持するためには、賃料を年間 1,000万円 + 350万円 = 1,350万円 まで引き上げる必要があります。

この例が示すように、固定資産税の上昇は、賃料引き上げの明確で客観的な根拠となる場合が多いです。

オーナーが知るべき賃料引き上げのポイント

固定資産税の上昇は、賃料引き上げの正当な理由となり得ますが、実際に交渉を進める際には、以下のポイントを押さえることが重要です。

  • データを提示する:単に「税金が上がったから」と伝えるだけでなく、税金の通知書など、具体的なデータを示しながら説明することで、説得力が増します。
  • 必要諸経費等の内訳を明確にする:賃料が、固定資産税だけでなく、修繕費管理費など、どのような費用を賄うために必要なのかを分かりやすく伝えます。
  • 賃貸事例比較法も考慮する:最終的な賃料は、市場の状況も踏まえて決定されるべきです。賃貸事例比較法で得られた市場家賃と、積算法で得られた積算賃料を総合的に判断することで、より公正で納得のいく賃料設定が可能になります。

まとめ:固定資産税はオーナーとテナントの共通認識

いかがでしたでしょうか。

固定資産税の上昇は、賃料引き上げの合理的な根拠となり得ます。

この背景には、オーナーさんの経営を成り立たせるために不可欠な「必要諸経費等」という考え方があります。

この事実をオーナーさんとテナントさんが共通認識として持つことで、賃料交渉は感情的な対立ではなく、客観的なデータに基づいた建設的な話し合いへと変わるはずです。

積算法の視点と、固定資産税という客観的な数値を武器に、オーナーさんは自身の経営を守りながら、テナントさんとの良好な関係を築けると良いですね!


以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑

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