「必要諸経費等」って何を含む?│賃料計算に役立つ内訳を実務的に解説

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【執筆・監修】不動産鑑定士 上銘 隆佑
上銘不動産鑑定士事務所 代表

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はじめに:家賃は「コスト」を賄うためにある

こんにちは、不動産鑑定士の上銘です。

家賃の適正水準を考える上で、オーナーさんの視点に立つ「積算法」という手法があることを、以前の記事で書きました。

積算法は、物件の価値(基礎価格)に期待利回りを乗じて得られる純粋な利益に、物件を所有・運営するために必要な費用を上乗せして賃料を導き出すものです。

この「物件を所有・運営するために必要な費用」こそが、「必要諸経費等」と呼ばれるものです。

家賃の交渉や査定では、この必要諸経費等をいかに正確に計算できるかが、オーナーさんにとっての「採算ライン」を明確にし、説得力のある賃料の根拠となります。

今回は、この「必要諸経費等」には具体的にどのようなものが含まれるのか、実務的な視点から分かりやすく解説していきたいと思います。

賃料計算に不可欠な5つの実務的な内訳

必要諸経費等は、単なる「雑費」ではありません。

家賃収入から差し引かれる、賃貸経営を続ける上で不可欠なランニングコストの総称です。

ここでは、特に重要な5つの内訳を書いていきます。

1. 公租公課(固定資産税、都市計画税)

物件を所有しているだけで毎年必ずかかるのが「公租公課」です。

必要諸経費等のうち、最も高額になる場合が多いので、とても重要です!

この中には、「固定資産税」と「都市計画税」が含まれます。

  • 固定資産税:土地や建物などの固定資産に対して課税される地方税です。
  • 都市計画税:市街化区域内に土地や建物を所有している場合に課税される目的税です。

これらの税額は、市町村が定める固定資産評価額を基に算出されます。

税率は地域によって異なりますが、所有している限り支払い続ける義務があります。

オーナーさんからすれば、家賃収入がなければこの税金を支払うこともできません。

2. 修繕費・建物管理費

賃貸物件の価値を維持し、テナントさんに快適に利用してもらうためには、日々のメンテナンスや将来の大規模な修繕に備える必要があります。

  • 修繕費:屋根や外壁の塗り替え、水回りの設備交換など、物件の機能を維持するための費用です。定期的なものから突発的なものまであります。
  • 建物管理費:清掃、エレベーターの点検、消防設備の法定点検、植栽の手入れなど、物件を管理するために必要な費用です。これらは管理会社に支払うことが一般的です。

これらの費用を家賃に含めずに賃貸経営を続けると、物件の劣化が進み、将来的な賃料下落や空室リスクが高まってしまいます。

3. 損害保険料

万が一の災害に備える「損害保険料」も、必要諸経費等の重要な項目です。

  • 火災保険:火災はもちろん、落雷や風災、水災など、さまざまな災害から物件を守るための保険です。
  • 地震保険:火災保険とセットで加入することが多く、地震や噴火、津波による損害を補償します。

保険は、不測の事態によってオーナーさんが被る経済的な損失をカバーするために不可欠なものです。

4. 空室損失相当額・貸倒れ損失等

これは、まだ起きていない「損失」をあらかじめ見込んでおく、プロならではの視点です。

  • 空室損失相当額:物件が常に満室であるとは限りません。空室期間が発生することも想定し、その間の賃料収入の損失分をあらかじめ費用として計上します。これが「空室損失相当額」です。
  • 貸倒れ損失等:テナントさんが賃料を滞納するリスクに備える費用です。賃料が支払われなかった場合の損失分や、滞納家賃を回収するための弁護士費用などが含まれます。

これらの費用は、安定した賃貸経営を続けるための「リスクヘッジ」として非常に重要な項目です。

5. その他費用

上記の他に、賃貸経営にはさまざまな「その他費用」がかかります。

  • 入居者募集費用:テナントさんを募集する際に不動産会社に支払う広告料などです。
  • 水道光熱費:共用部の電気代や水道代などです。

減価償却費は必要諸経費等に含めない場合が多いです

ここで一つ、重要な注意点があります。

「不動産鑑定評価基準」では、減価償却費を計上するかしないかにより期待利回りを変えるとして、どちらも許容されています。

実務上、「減価償却費」は積算法における必要諸経費等には含めないことが多いです。

なぜなら、期待利回りの査定において、減価償却費を考慮しない純収益に対応する利回りが、J-REIT事例などにより把握しやすいためです。J-REITの利回りでは、減価償却費が考慮されていない(利回りで考慮されている)場合がほとんどです!

また、減価償却費は、建物の価値が時間とともに減少していくことを会計上示すものであり、実際にお金が出ていくキャッシュアウトを伴う費用ではない点も重要です。積算法は「現在の収益から実際の経費を差し引いて、どれだけの利益が残るか」を考えるための手法であり、減価償却費は計上しない方がテナントの理解が得られる可能性が高いと考えます。

まとめ:必要諸経費等の計算が、適正な賃料の鍵を握る

いかがでしたでしょうか。

積算法における「必要諸経費等」は、単なる税金や管理費だけでなく、将来の修繕や空室リスクまで含んだ、賃貸経営を成り立たせるための重要なコストであることがお分かりいただけたかと思います。

これらの費用を正確に計算することで、オーナーさんは「この家賃以下では経営が成り立たない」という明確な基準を持つことができます。

そして、その基準を知ることは、テナントさんにとっても、オーナーさんの事情を理解し、より建設的な賃料交渉を行うための大きなヒントとなります。

積算法は「基礎価格」「期待利回り」そして「必要諸経費等という3つの要素から成り立っています。

このすべてを理解することで、より納得のいく賃貸借契約を結ぶことができるはずです。


以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑

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