
こんにちは、不動産鑑定士の上銘です。
この記事では、2024年度の福岡県全域における農地・林地の価格動向を書いていきます。
特に、一般には情報が出回りにくい農地・林地の価格相場について、国土交通省の信頼できるデータをもとに読み解いていきます。
「都市近郊部の農地や林地」については、宅地化を前提とした価格形成も散見されるため、純粋な農林地利用の相場とは異なることが多いです。
この記事では、そういったバイアスも加味しながら、「本来の農地・林地の相場感」を把握するためのポイントも含めてご紹介します。
宅地・農地・林地の価格推移と取引件数
まずは、2024年度における福岡県内全域の宅地・農地・林地の平均価格と中央値を、国土交通省不動産情報ライブラリのデータをもとに整理します。
福岡県全域のため、所在地は福岡地域、筑豊地域、北九州地域、筑後地域の4つの地域全ての取引を集計しています。

宅地
- 平均地積:406㎡ 平均単価:96,615円/㎡
- 中央地積:290㎡ 中央値単価:27,000円/㎡
- 取引件数:2,328件
宅地は福岡市や北九州市、久留米市において活発な取引が続いており、平均単価が100,000円/㎡に近いのは都市圏の地価上昇が背景にあると考えられます。
特に都市圏や再開発エリアでの取引単価は容積率に基づいて価格決定されることがほとんどで、平均値と中央値の差が大きいのが特徴です。
農地
- 平均地積:1,455㎡ 平均単価:1,457円/㎡
- 中央地積:1,200㎡ 中央値単価:538円/㎡
- 取引件数:558件

農地については、宅地化を見据えた取引と純粋な営農目的の取引が混在しています。
そのため、平均値はやや高めに出る傾向がありますが、実際の農地価格としての相場感をつかむうえでは中央値を見るほうが現実に即しています。
林地
- 平均地積:1,426㎡ 平均単価:1,260円/㎡
- 中央地積:990㎡ 中央値単価:200円/㎡
- 取引件数:151件

林地は全体として市場流通が少なく、また山に近いため傾斜が強いなど個別性が非常に強い土地です。
特に、樹木手入れの状況や接道条件、斜面地であるかどうかなどによって価格にばらつきが生じやすいため、こちらも平均より中央値のほうが参考になります。
平均単価が高額となっているのは、純粋な林地目的の取引ではなく、宅地や太陽光発電施設の素地など、転用を目的とした取引と考えられます。
平均値と中央値をどう見るか?
一般的に価格の分析では平均値が使われがちですが、不動産のようにばらつきが大きい資産では中央値の方が実態に即しているケースも多いです。
特に農地・林地では、周辺に宅地開発の計画がある、隣地が既に宅地化されている、道路付けがよいなどの条件で一部高値の取引が出てしまうため、平均値が高めに出る傾向があります。
中央値は、そのような例外値の影響を受けにくく、「今、最も一般的に取引されている価格帯」を示していると考えられます。
農地・林地の相場を読み解く視点
都市部の宅地と異なり、農地・林地の価格は「収益性」や「転用可能性」に加えて、「所有者の意向」や「周辺環境」に強く左右されます。 以下のような点に注目することで、より実態に即した価格判断が可能になります。
- 現況:耕作中か遊休地か
- 地目と農地法・森林法の規制状況
- 接道条件:公道に接しているか、農道・林道か
- 周辺の都市化状況:都市計画区域内か否か
- 水利条件や災害リスク:用水路・調整池・崖地等
特に近年では、相続や遊休化に伴う売却ニーズも増加傾向にあります。こうした背景を踏まえた評価が重要です。
宅地と異なる「相場観」
「地価マップ」や「基準地価格」など、宅地については公的な価格指標が多く整備されていますが、農地・林地はそれが非常に限定的です。 理由は大きく2つあります。
- 地価の把握が困難である(取引が少なく、価格情報が集まりにくい)
- 価格形成要因が複雑(立地、規模、作物、水利条件、地形、地質など)
そのため、地域の不動産鑑定士が蓄積してきた実務的な相場観や、国土交通省の取引事例に基づいたデータ分析が必要不可欠なのです。
終わりに:不動産鑑定士の視点が活きる領域
宅地よりも農地・林地の評価は、不動産鑑定士の力量が問われる分野だと考えています。
数字だけでは説明しきれない「背景事情」や「地域事情」をどう読み取るか、評価の現場では問われます。
実際、林地でも「隣接地にバイオマス発電所ができる計画がある」といった情報が評価額に大きな影響を与えることもあります。
そして何より、農地や林地の価格は“売りたい人の事情”と“買いたい人の思惑”が、住宅地以上に価格形成に色濃く反映される領域でもあります。
実際の取引価格を見てみると、ぴったり300万円や500万円といった取引が非常に多いです!
単価より総額感で値決めがされていることが見て取れます。
今後もこうした農林地評価の実務について、マーケット情報とあわせてお届けしていきたいと思います。
また福岡県内の農地・林地の時価評価でお困りの方がいらっしゃいましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑
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