
こんにちは。不動産鑑定士の上銘(じょうめい)です。
突然ですが、みなさんはご自身が投資している商品の「今の本当の価値」を、どれくらい正確に把握できているでしょうか?
例えば、株式投資。
「株価」はスマホで毎日リアルタイムに見られますが、それが会社の本来の実力に見合った価格なのか、それとも市場の熱狂やパニックで歪められた価格なのか、判断するのはプロでも至難の業です。
あるいは、実物の不動産投資。
「買った時は1億円だったけど、今売ったらいくらなのか?」というのは、実際に売りに出してみるまで誰にも分かりません。
「価格が毎日乱高下して一喜一憂するのは疲れる。でも、今の価値が分からないブラックボックスな状態も不安」
そんな投資家ならではの悩みを解決してくれる仕組みが、最近注目を集めている「不動産セキュリティ・トークン(不動産ST)」には備わっています。
それが、年に2回行われる「期中鑑定(きちゅうかんてい)」というイベントです。
今回は、私たち不動産鑑定士が深く関わっているこの「期中鑑定」という仕組みが、なぜ投資家のみなさんにとって最強の「答え合わせ」になり、安心材料になるのか。
不動産鑑定士の視点から、現場の裏話も含めてお話ししたいと思います。
1. そもそも「価格」と「価値」は違う、という話
本題に入る前に、少しだけ専門的な話をさせてください。投資の世界には「価格(Price)」と「価値(Value)」という2つの言葉があります。これらは似ているようで、実は全く異なる性質を持っています。
- 価格(Price): 市場で取引されている値段。「今、いくらで買えるか」。
- 価値(Value): そのモノが本来持っている実力。「理論的にいくらが妥当か」。
J-REITの悩みどころ
不動産投資信託である「J-REIT(ジェイ・リート)」は非常に優れた金融商品ですが、証券取引所に上場しているため、この「価格」と「価値」が大きくズレることがあります。
例えば、保有しているオフィスビルは満室稼働中で、賃料もしっかり入ってきている(=価値は高い)にもかかわらず、株式市場全体がショック安になったせいで、REIT価格もつられて30%下落してしまう……といったことが起こります。
これは不動産としての「価値」は変わっていないのに、投資家の心理によって「価格」だけが下がってしまった状態です。
実物不動産の悩みどころ
一方で、実物のマンション一棟買いなどはどうでしょうか。
こちらは市場の相場変動に晒されにくい分、価格は安定していますが、「今月は価値が上がったのか、下がったのか」を確認する手軽な方法がありません。
いわゆる「値動きが見えないリスク」があるわけです。
そこで「不動産ST」の出番
ここで登場する不動産ST(デジタル証券)は、この両者の「いいとこ取り」を実現しようとしています。
一体どうやって実現しているのか?
それは、「プロ(不動産鑑定士)が定期的に『価値』を計算して公表し、市場の『価格』もその価値に合わせて動くようにしよう」という設計思想で作られているからです。
この「定期的な計算」こそが、今回深掘りする「期中鑑定」なのです。
2. 不動産STの健康診断!「期中鑑定」とは何か?
「期中鑑定」とは、簡単に言えば「運用期間中に行う、不動産の定期健康診断」のことです。
不動産STの場合、だいたい半年に1回(年に2回)のペースで行われます(※商品によりますが、KDXなどが手掛ける主要な公募STは概ねこのサイクルです)。
私たち不動産鑑定士が、対象となるマンションやオフィスビル、物流施設などについて、「前回の評価から半年経ったが、価値は上がったのか? 下がったのか?」ということを徹底的に計算し直します。
具体的になにをしているの?
「パソコンで周辺の相場を調べて、ちょこっと数字を修正して終わりではないか?」
そう思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実はもっと泥臭く、緻密な作業を行っています。
私たち鑑定士は、期中鑑定のたびに以下のようなポイントを細かくチェックしています。
- 稼働状況の確認:
空室は増えていないか? もうすぐ退去しそうなテナントはいないか? 新しく入ったテナントの賃料は相場と比較して適正か? - 建物のコンディション:
エレベーターや空調設備に不具合はないか? 大規模修繕の計画通りに進んでいるか? 昨今の建築費高騰の影響で、将来の修繕コストの見積もりが跳ね上がっていないか? - マーケットの変化:
そのエリアの人気は上がっているか? 金利の変動によって、投資家が求める期待利回り(キャップレート)は変化したか?
これらを総合的に分析し、何十ページにも及ぶ分厚い「不動産鑑定評価書」を作成します。
そして、「今のこのビルの価値は〇〇億円です」という、嘘偽りのない数字(鑑定評価額)を弾き出すのです。
3. 年に2回の「答え合わせ」がもたらす安心感
さて、ここからが投資家のみなさんにとって一番重要な話です。
この「期中鑑定」によって算出された「鑑定評価額」が、不動産STの価格にどう影響するのでしょうか。
結論から申し上げますと、不動産STの取引価格は、この「鑑定評価額」に限りなく連動するように動きます。
「NAV倍率1.0倍」の安心感
専門用語で「NAV(Net Asset Value:純資産価値)」という言葉があります。
ざっくり言えば、「鑑定評価額から借入金などを引いた、投資家持ち分としての正味の資産価値」のことです。
不動産ST(特に大阪デジタルエクスチェンジなどの「START」市場で取引される公募ST)の最大の特徴は、「取引価格 ≒ NAV(1口あたりの純資産額)」という図式がほぼ成立している点です。
J-REITの場合、市場の需給バランスで価格が決まるため、「NAVは10万円なのに、取引価格は8万円(割安・ディスカウント)」とか「取引価格は12万円(割高・プレミアム)」といった乖離が常に発生します。
しかし、不動産STは違います。
半年に1回、私たち鑑定士が「今の理論的な価値」を発表します。すると、合理的な投資家のみなさんはこう考えます。
- 「プロである不動産鑑定士が●万円と言っているなら、●万円前後で売買するのが妥当だろう」
まるでテストの「答え合わせ」のように、市場の参加者全員が鑑定評価額(NAV)を基準にして売買を行うため、価格がNAVに収斂する傾向にあります。
なぜJ-REITのように乱高下しないのか?
実際に不動産STの取引価格の推移を見てみると、NAVを意識した価格付けで推移しています。
これは、投資家心理(恐怖や強欲)ではなく、「裏付けとなる不動産の価値」を見て冷静に売買されている証拠です。
もし、どこかの投資家がパニックになって「8万円で売りたい!」と言い出したとしても、他の投資家は「いやいや、先月の鑑定でNAVは10万円と出ている。それなら私が8万円で買おう(すぐに2万円の含み益になるから)」と判断します。
結果として、買い注文が入り、価格はすぐに適正付近に戻ります。
この「価格の復元力」の根拠になっているのが、定期的な「期中鑑定」なのです。
4. 不動産鑑定士の「ここだけの話」:私たちは何を見ているか
ここで少し、鑑定士としての現場の裏話も交えておきましょう。
「鑑定評価額といっても、ある程度幅を持たせて適当に決めているのでは?」
そんな意地悪な質問を受けることもありますが、決してそんなことはありません。
私たち鑑定士は、投資家のみなさんの代わりに「リスクの予兆」を必死に探しています。
数字を作るのではなく、リスクを織り込むのが仕事だからです。
賃料収入だけじゃない、「出口」のリスク
期中鑑定で私が特に神経を使うのは、今の家賃収入だけではありません。
「将来、この物件を運用期間終了後に売却するとき、いくらで売れそうか?」という出口価格(還元利回りに関わる部分)です。
例えば、今は満室稼働していても、周辺に新しい競合マンションが次々と建設されているエリアなら、「数年後は空室リスクが高まり、賃料を下げざるを得ないかもしれない」と判断し、評価額を少し厳しめに見積もることもあります。
逆に、再開発が決まってエリアの人気が爆発しそうなら、そのポテンシャルを評価額にプラス反映させます。
インフレ時代の「コスト」への目配り
最近特に重要なのが「コスト」の管理です。
物価上昇に伴い、清掃費や設備点検費、そして将来の大規模修繕費が上がっています。これを無視して「家賃が入るから大丈夫」と判断してしまうと、純利益(NOI)が目減りし、投資家への配当が減ってしまいます。
私は、管理会社から上がってくる細かいコストの報告書や修繕計画にも目を通し、「この修繕費アップは一時的なものか、それとも永続的なものか?」を見極め、それを毎回の鑑定評価額に即座に反映させています。
つまり、みなさんが運用レポートで目にする「期中鑑定の結果(NAV)」は、単なる計算結果ではなく、我々専門家がその不動産の「収益力」と「将来性」を徹底的に精査した結晶なのです。
5. 数字は嘘をつかない。だからSTは「透明」だ
これまでの不動産投資(特に実物不動産や、中身の不透明な私募ファンド)では、運用期間中の価値の変動が見えにくいのがネックでした。
「運用報告書が届いたけれど、良いことばかり書いてあって、本当のところはどうなのか?」
「配当は出ているけれど、実は物件価格自体は暴落していないか?」
そんな疑心暗鬼になった経験がある方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、不動産STなら、その心配は劇的に減ります。
なぜなら、「鑑定評価書」という客観的な第三者の証明書が、定期的に提示されるからです。
- 価値が上がっていれば: 「鑑定額が上がった。含み益が出ているから、このまま保有を続けよう」
- 価値が下がっていれば: 「なぜ下がったのか? ああ、修繕費がかさんだのか。でもこれは必要な出費で、一過性なら心配ないな」
このように、理由を知った上で冷静に対処できます。
この「透明性」こそが、不動産STの最大の武器であると考えます。
6. まとめ:賢い投資家は「根拠」を買う
長くなりましたが、まとめさせていただきます。
- 不動産STは「期中鑑定」によって、半年に1回「本当の価値」の答え合わせができる。
- 市場価格もその「鑑定評価額(NAV)」に連動するため、J-REITのような理不尽な乱高下が少ない。
- その評価額は、AI任せではなく、私たち不動産鑑定士が「現場のリアル」を見て算出している。
投資において一番怖いのは「訳もわからず価格が動くこと」です。
逆に言えば、「なぜその価格なのか」という根拠が明確であれば、安心して長く保有することができます。
不動産セキュリティ・トークン(ST)は、ブロックチェーンという最新技術を使っていますが、その価値を支えているのは、実は私たち不動産鑑定士による「泥臭くて厳密な査定」というアナログな技術なのです。
「一攫千金を狙うギャンブル」ではなく、「根拠のある堅実な資産形成」をしたい方にとって、この「年に2回の答え合わせ(期中鑑定)」がある不動産STは、非常に相性の良いパートナーになるはずです。
もし、「もっと詳しく鑑定評価書の見方を知りたい」「検討しているST商品の鑑定額の妥当性をプロの視点で解説してほしい」といったご要望があれば、ぜひお気軽に不動産鑑定士の上銘までご相談ください。
数字の裏側にあるストーリーを、専門家の視点から分かりやすく解説させていただきます。
以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
この記事の執筆者

不動産鑑定士 上銘 隆佑
Ryusuke Joumei
上銘不動産鑑定士事務所代表。
大和不動産鑑定株式会社東京本社に入社し、2019年に不動産鑑定士登録(第10401号)。国内系不動産アセットマネジメント会社への出向を経て、大和不動産鑑定株式会社九州支社へ赴任。
適正家賃、関係者間売買、証券化対象不動産、銀行の担保不動産、公有地の売買に係る不動産鑑定評価を中心に、不動産鑑定評価に携わる。
不動産鑑定業 福岡県知事 第(1)-347号
info@jkantei-office.com
お問い合わせはこちらから >
-scaled.png)
コメント