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【講義実例】街の風景が変わらない? 不動産鑑定士の私が見た「建設費高騰」と再開発の裏側、前半

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【執筆・監修】不動産鑑定士 上銘 隆佑
上銘不動産鑑定士事務所 代表

こんにちは。不動産鑑定士の上銘 隆佑(じょうめい りゅうすけ)です。

2025年11月に勉強会講師をしました。題材は「建築費高騰の影響」です。

PDFデータを公開しておりますので、福岡の建築費高騰の影響の参考となるかと思います!

2025/11講義
目次

「建設費高騰」と再開発が進まない事情

今回は、日々の鑑定業務や街を見る中で痛感している、私たちの生活にもダイレクトに影響を与え始めている「建築費の高騰」についてお話ししたいと思います。

皆さんは最近、街を歩いていてこんなことを感じたことはありませんか?

「あれ、ここの工事、ずっと仮囲いのままで進んでなくない?」とか、「再開発のニュースが出ていたのに、いつまで経っても建物が建たないなぁ」とか。

実はこれ、単なる工期の遅れではなく、もっと根深い問題が関わっています。

それが今回のテーマである「異常なまでの建設費高騰」です。

私が集めたデータや実際の事例を交えて、建設業界や不動産市場で今なにが起きているのか、解説していきます。

1. 数字で見る衝撃! 2015年比で1.3倍の世界

まず現状認識からです。「物価が上がっている」というのはスーパーの買い物でも感じますが、建設業界のインフレ率はその比ではありません。

国土交通省の統計データを確認すると、2024年度の建設工事費は、2015年度と比較して約1.3倍にまで跳ね上がっています。

「たった1.3倍?」と思われるかもしれませんが、億単位、数十億単位の建設プロジェクトにおいて、この30%の上昇は致命的です

。例えば、元々100億円で建つはずだったビルが、同じ仕様なのに130億円かかるわけですから、事業計画が根本から狂ってしまうのも無理はありません。

なぜここまで上がってしまったのか?

私が分析するに、この高騰には主に2つの大きな要因があります。

① 資材価格の高騰
コンクリートやセメント、鉄骨といった材料費が軒並み上がっています。

一般財団法人経済調査会のデータ等を参照すると、2025年の資材価格は2015年比で約1.57倍になると予測されています。特にセメントは1.61倍、生コンクリートに至っては1.79倍という凄まじい上昇率です。

② 人件費の高騰(2024年問題)
もう一つ見逃せないのが「人」の問題です。

建設業界は慢性的な人手不足に加え、「働き方改革」が進んでいます。

これまでは「現場は土曜日も動くのが当たり前」でしたが、今は「4週8休(週休2日)」を日本建設業連合会が強く推進しています。休みが増えること自体は素晴らしいことですが、工期が伸びればその分コストがかさみます。

さらに、電気工事士などの有資格者が不足している設備関連の労務単価上昇が著しく、2025年の労務単価は2015年比で約1.49倍になる見込みです。

資材も高い、人も高い、工期も長い。これが今の建設現場の「三重苦」というわけです。

2. オフィスビルが建たない本当の理由

さて、ここからが本題です。建築費が上がると、街の開発はどうなるのでしょうか?


ここで重要になるのが、「オフィスビル」と「分譲マンション」の収益モデルの違いです。

オフィスの苦悩:家賃はそう簡単に上げられない

オフィスビルの場合、開発業者の収益は「家賃収入」から来ます。

しかし、建築費が上がったからといって、「明日から家賃を1.5倍にします!」とはいきません。オフィスの賃料というのは、周辺相場や企業の業績に左右されるため、非常に「硬直的(上がりにくい)」な性質を持っています。

  • 建築費(イニシャルコスト):爆上がり
  • 家賃収入(リターン):横ばい

こうなると、投資の指標である「利回り」が低下し、事業として成立しなくなります。「このビルを建てても採算が合わない」と判断されれば、プロジェクトはストップします。

実際に、私が活動している福岡でも顕著な例があります。

「キャナルシティ博多イーストビル」の建て替え計画では、建築費高騰による採算性の悪化で計画が見直され、当初の解体計画が白紙になり、既存建物をそのまま暫定利用することになりました。

また、「博多駅空中都市プロジェクト」に至っては、当初435億円と想定されていた総事業費が約2倍に膨れ上がり、87億円もの特別損失を計上して計画自体が中止になりました。

線路の上空にビルを建てるという難工事だったこともあり、建築費の高騰が致命傷になった形です。

これは福岡だけの話ではなく、渋谷や中野といった東京の再開発エリアでも同様の計画見直しや延期が相次いでいます。

3. なぜマンション建設だけは止まらないのか?

一方で、皆さんの周りで「タワーマンション」や「新築マンション」の工事はどんどん進んでいませんか?


「オフィスは建たないのに、なぜマンションは建つの?」と疑問に思う方も多いでしょう。

ここには明確な理由があります。それは「マンション価格は上げられるから」です。


デベロッパーの方々にヒアリングをしても、「分譲マンションが一番採算が合いやすい」という声が多く聞かれます。

分譲マンションの場合、建築費の高騰分は、そのまま「販売価格」に転嫁されています。

「建築費が上がったので、分譲価格を上げますね」→「それでも買います!」という需要が、個人や富裕層の間で旺盛なのです。

データを見ると、福岡市の新築分譲マンションの平均価格は、2019年の約3,968万円から、2024年には約5,598万円へと40.1%も上昇しています。

建築費の上昇以上に販売価格が上昇しているため、デベロッパーとしては「オフィスよりマンション」という判断になります。

そのため、再開発エリアでも「当初はオフィス・商業中心だった計画が、分譲マンション中心に変更される」というケースが増えているのです。

4. 設備会社は絶好調? 業界内の勝ち負け

少し視点を変えて、企業の業績を見てみましょう。建築費高騰でデベロッパーが頭を抱える一方で、業績が好調な業界もあります。

それが「設備工事会社」です。


例えば、私の地元・福岡に本拠を置く大手設備工事会社などは、売上高・利益ともに過去最高水準です。

半導体工場の建設ラッシュや、都市再開発における高度な設備需要、さらには人手不足による工事単価の上昇を背景に、利益率が向上しているのです。

「工事が高い」と嘆く発注者と、「仕事が選べる立場で単価を上げられる」受注者。このパワーバランスの変化も、今の建設業界の特徴と言えるでしょう。

前半のまとめ

ここまで、建築費高騰の現状と、それが再開発に与える影響を見てきました。

  • 建築費は2015年比で1.3倍、資材や人件費は1.5倍近くに高騰。
  • オフィスビルは家賃に転嫁できず、開発の中止や延期が相次いでいる。
  • 分譲マンションは価格転嫁が可能で需要もあるため、建設が続いている。

街の再開発が遅れたり、マンションばかりが増えたりしている背景には、こうした切実な「懐事情」があったのです。

しかし、建築費の高騰がもたらす影響は、これだけではありません。


後半の記事では、私の専門である「不動産鑑定」の領域、つまり「固定資産税」や「不動産売買時の税金トラブル」といった、より実務的でお金に直結するお話をさせていただきます。

「自分は再開発なんて関係ない」と思っている方も、ご自宅や所有不動産の税金に関わる重要な話ですので、ぜひ続けてご覧ください。

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【講義実例】 建築費高騰が招く「固定資産税」と「土地建物比率」の変化、講義後半 - 上銘不動産鑑定士事務所 へ返信する コメントをキャンセル

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