
広島県の地価は4年連続で上昇。背景にあるのは再開発と利便性の向上
令和7年の地価公示において、広島県は住宅地・商業地ともに4年連続で地価が上昇しました。
特にJR広島駅やJR福山駅の周辺では再開発が着実に進み、それに伴って地域全体の期待感が高まっていることが、地価上昇の大きな原動力となっています。
一方で、県北や島しょ部では下落が続いており、地価動向の二極化も明確になっています。不動産鑑定士として、このような動きをどのように読み解けばいいのか、地価公示のデータをもとに解説します。
まず、今回の地価公示は令和7年1月1日時点での全国の主要地点の土地価格を国土交通省が公表するもので、広島県内では合計628地点が調査対象となりました。
その中で、商業地は平均+2.7%、住宅地は平均+1.3%と、いずれも前年からの上昇を記録。これは、再開発、利便性の向上、県外からの関心、低金利環境など、複合的な要因によって支えられています。
JR広島駅・JR福山駅周辺の再開発がけん引役に
広島市内の商業地で最も上昇率が高かったのは、JR広島駅新駅ビルの目の前、広島市南区松原町で+9.8%。
ここは駅の再開発が進み、駅ビル「ビッグフロント広島」や周辺商業施設の新設、オフィス・ホテル開発といった動きが活発で、訪問者数・交通量ともに増加。
現地では地元デベロッパーによる用地取得も活発に行われており、これが地価の上昇を強く後押ししています。
また、価格水準で最も高かったのは広島市中区八丁堀で、1㎡あたり404万円(+3.9%)。
広島随一の繁華街であり、紙屋町や本通と並んで集客力の高いエリアですが、ここでも再開発計画が進行中で、古いビルの建て替えや商業施設のリニューアルなどが予定されています。
資産価値の維持・上昇を見越して投資用不動産の取得も見られ、商業地としての評価が引き続き高まっていることがうかがえます。
商業地で注目されるもう一つの拠点がJR福山駅周辺です。
駅ビルの刷新、駅前広場の整備、ペデストリアンデッキの設置など、都市機能の強化が進められています。
福山市は備後圏域の中核都市として商業・工業・住宅需要のすべてに強みがあり、今後も一定の地価上昇が期待されています。
住宅地も安定した需要で上昇傾向。だが二極化も鮮明に
住宅地についても、再開発にともなう利便性向上が評価され、県平均で+1.3%の上昇となりました。
特に広島市内や福山市内、廿日市市など、都市機能が充実しているエリアでは安定した需要が見られます。
JR沿線や市電沿線など、交通利便性に優れる住宅街では、戸建住宅・分譲マンションともに堅調な動きです。
実際、利便性が高く、生活施設が充実したエリアでは、建築費が高止まりしていても、新築住宅の販売が継続しており、地価の下支え要因になっています。
広島市西区・南区を中心としたJR沿線のベッドタウンや、廿日市市、東広島市などでも住宅地の地価は堅調です。
特に東広島市では、広島大学を中心とした学術研究都市としての機能が広がっており、教育・研究関係者の住宅需要が根強いのが特徴です。
一方で、県北部や離島部では住宅地・商業地ともに地価下落が続いています。
庄原市、三次市、江田島市などでは、人口減少や空き家の増加により需要が縮小し、不動産の流動性が極端に低下。この傾向は今後も続くと見られ、都市部との格差は拡大する可能性があります。
今後の見通しと懸念材料:人口動態と金利の動きに注目
広島県の地価は、今後もしばらくは都市部を中心に上昇傾向が続くと見られています。
ただし、「人口の転出超過が続けば供給過多になり、いずれ賃料が下がる可能性がある」との声も聞かれ、再開発のハード整備だけでは持続的な上昇は難しいことも示唆されています。
また、金融政策の影響も無視できない状況になっています。
「今はまだ低金利環境だが、住宅ローン金利がさらに上昇すれば、住宅取得に対するハードルが上がり、需要減退の要因になり得る」と報道されています。
特に戸建住宅や分譲マンションの購入を検討している層にとって、金利の上昇は非常に大きな影響を与えるため、今後の利上げ局面には注視が必要です。
不動産鑑定士の視点:都市機能再構築とリスクの見極めが重要
広島県の地価動向は「利便性」「開発」「人口」の3要素に強く影響されます。
都市機能の再構築が進むJR広島駅や福山駅周辺では、明らかに不動産価値が高まりつつあり、再開発による波及効果も期待されます。
これに伴って周辺住宅地の需要も増加し、エリア全体での資産価値向上が続いています。
しかし、不動産鑑定士として評価する際には、上昇傾向の裏にあるリスクも冷静に見ておく必要があります。
特に、将来的な人口減少リスク、住宅ローン金利の上昇、供給過多などが顕在化した場合、収益性や資産価値に直接影響を与えるため、鑑定評価や投資判断ではそうした不確実性も織り込む視点が求められます。
今後も広島県の地価を評価する際には、「都市部×再開発」と「交通利便性が劣る×人口減少」という二極の構図を正しく理解しながら、エリアごとに収益性や市場性を見極めることが必要です。
再開発によるポジティブな材料をどう活かすか、そしてネガティブな要素をどこまで織り込むか。そのバランス感覚が不動産鑑定士に求められると感じます。
以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑
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