
令和7年地価公示において、熊本県の住宅地は8年連続で上昇し、前年+2.5%からさらに上昇幅を広げ、+3.1%の上昇率を記録しました。
全国的にも注目される台湾の半導体大手TSMCの進出を背景に、特に菊陽町・大津町・合志市といった熊本市北東部のエリアでは大幅な地価上昇がみられました。
これらの地域では、半導体関連の新たな雇用創出や住宅需要の増加が顕著で、九州における住宅地市場の新たな牽引役としての存在感が高まりつつあります。
本記事では、令和7年の熊本県における住宅地地価の動向を「熊本市内」「TSMC進出エリア」「地方都市圏」の三つのブロックに分けて整理します。
実際の地価データや上昇率に基づきながら、需要の背景、今後の見通し、そして地価の二極化傾向についても書きたいと思います!
熊本市の住宅地│中心部の再注目と郊外部の堅調推移
熊本市における住宅地は、全体で+3.2%と前年(+2.6%)を上回る上昇を示しました。
特に中央区は+5.0%と、市内でも際立った上昇率を記録しています。
これは新屋敷、水前寺、大江といった富裕層に人気のある文教・住宅エリアの地価が上昇したこと、また九品寺や白山などの利便性と環境のバランスが取れたエリアにおける住宅需要の根強さが影響しています。
新屋敷・水前寺エリアはもともと熊本市内でも住宅地としての評価が高い地域ですが、近年は高所得者層による戸建て志向の再燃、再開発計画による利便性の向上などが加わり、相対的な希少性がさらに際立つ形となっています。
マンション開発はやや抑制気味であり、戸建住宅地のニーズにより高いプレミアムがつく状況です。
東区(+3.3%)では、健軍・花立・桜木といった居住環境に優れた地域で物件供給が限定的となり、需給バランスがタイト化しています。
特に花立・桜木周辺ではファミリー層の人気が続いており、学校区・治安・日常利便性といった生活に直結する要因での評価が高い傾向です。
また、東区東部の戸島・小山エリアでは、TSMC関連企業や建設業者の社宅・社有地取得の動きが出ており、従来は供給過多で価格が伸び悩んでいた地域にも波及効果が及び始めています。
小山団地エリアを中心とした分譲地の売れ行きが回復しており、今後数年間は底堅い推移が予想されます。
北区(+3.0%)では、菊陽町・合志市と接する武蔵ヶ丘・楠・龍田地区にて、相対的な割安感を背景とした住宅取得が見られています。
熊本電鉄や豊肥本線の駅利用圏でありながら、分譲価格が抑えられている点が評価され、地価の上昇幅が拡大しています。
TSMC進出エリア│全国トップレベルの地価上昇率を記録
今回の地価公示において、熊本県で最も注目を集めたのが、やはりTSMCの進出による影響を強く受けたエリアです。
具体的には、菊陽町(+12.4%)、大津町(+11.3%)、合志市(+9.9%)という驚異的な地価上昇率を記録しました。これは全国でもトップクラスの伸び率であり、短期間でのインフラ整備・住宅需要の高まり・商業開発といった複数の要素が同時に進行していることの裏返しといえるでしょう。
菊陽町はTSMCのメイン工場が立地することで、いまや「半導体のまち」としてのブランドを確立しつつあります。
工場関係者の赴任住宅ニーズに加え、関連企業の拠点確保の動きも激化しており、広めの土地を求める声も多く、70坪超の区画が競争的に取引される事例も出てきています。
合志市では、中心部だけでなく外縁部にも開発の波が広がっており、これまで評価の低かった農転エリアにも分譲地計画が持ち込まれるようになっています。
同市内ではスマートシティ構想も進行中であり、人口流入が持続する限り、当面は高水準の価格帯を維持するものと見込まれます。
大津町においても、従来は交通利便性がネックとなる地域が多かったものの、交通インフラの改善に加え、大規模な区画整理事業や新駅の構想が浮上しつつあり、先取り需要が高まっています。マ
ンションよりも戸建志向が強く、土地付き住宅への需要が旺盛です。
これら3市町の共通点は、半導体関連以外にも新たな商業施設、教育施設、医療施設の整備が進んでおり、生活インフラの充実とともに「定住先」としての魅力が格段に向上していることです。
今後も企業の追加投資や住宅開発が継続すれば、住宅地としての価値はさらに強まっていくと考えられます。
地方部の住宅地│一部に底打ち感も、人口減少の影響は依然大きい
一方で、熊本県の県北・県南エリアでは、依然として人口減少の影響が色濃く、住宅地地価は上昇と下落が混在する構図です。
県北では、荒尾市(+0.3%)、山鹿市(+0.6%)、菊池市(+1.7%)など、TSMCによる広域的な波及を受けるエリアや、市街地中心部で住宅再開発が進む地区においては地価がやや上昇しています。
菊池市においては、国道325号線沿いの分譲住宅地で動きが見られ、菊陽町の高騰を受けた近隣需要の代替地として注目されています。
その一方で、玉名市(0.0%)、阿蘇市(0.0%)、長洲町(0.0%)といったエリアでは、地価の下落傾向がようやく落ち着き、横ばい水準で推移しています。
地価の底値感が出始めたことから、一部では投資的な動きやIターン・Uターンの定住促進も見られ、今後は徐々に緩やかな回復基調に入る可能性があります。
県南では、八代市(▲0.2%)、水俣市(▲0.8%)、人吉市(▲1.6%)、天草市(▲0.9%)と、依然として地価下落が続いています。
とはいえ、いずれの地域においても下落幅は前年から縮小傾向にあり、特に八代市では中心市街地の再整備に伴う期待感も一部で広がっています。
まとめ│立地で選ばれる時代へ。住宅地地価は“二極化”が進行中
令和7年の熊本県住宅地における地価動向は、全体として好調さを維持しつつも、地価の二極化の傾向が浮き彫りとなりました。
TSMC進出エリアや熊本市中心部のように、需要と期待感が集中するエリアでは高水準の地価上昇が続く一方で、人口減少が進行するエリアでは横ばいか微減という結果になっています。
最近の不動産市場では、「価格よりも立地重視」という傾向が富裕層を中心に強まっており、利便性・教育環境・ブランド力のある地域には、価格が高くても購入したいという動きが続いています。
今後も熊本県では、半導体関連の進展によりさらなる地価上昇が続く可能性がある一方で、供給過剰や生活インフラの未整備な地域では需給ギャップが拡大する可能性も否定できません。
市場全体を俯瞰しつつ、個別の立地条件に注目することで、より的確な土地評価が求められる段階に来ていると感じます!
以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑
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