【解説】地価で見る福岡県の工業地│令和7年も地価好調。北九州空港の利便性は依然良好。新大牟田駅産業団地はTSMC熊本の恩恵も(R7地価公示)

不動産鑑定士の写真

【執筆・監修】不動産鑑定士 上銘 隆佑
上銘不動産鑑定士事務所 代表

目次

福岡県の工業地、令和7年も上昇基調継続

福岡県における令和7年の工業地の地価は、引き続き好調な動きを見せています。

県全体の平均変動率は+8.9%と、前年の+8.1%からさらに上昇幅が拡大し、9年連続の上昇、そして4年連続の上昇率拡大という結果となりました。

背景には、いくつかの要因が考えられます。

まず第一に挙げられるのが、物流施設用地に対する継続的な需要の高さです。

EC市場の拡大や物流拠点の再編に伴い、県内各地で物流関連施設の立地が進んでおり、それが工業地全体の価格を底上げしています。

そしてもうひとつ大きな影響として挙げられるのが、やはりTSMC(台湾積体電路製造)による熊本進出の波及効果です。

直接の立地は熊本県内ですが、交通アクセスや産業連携の観点から、福岡県南部、特に筑後地域や大牟田周辺の工業地にも注目が集まっており、県全体の工業地に対する投資家の関心を押し上げる一因となっています。

福岡市:上昇率はやや縮小も、需要は依然堅調

福岡市の工業地における平均変動率は+14.8%となり、前年(+15.4%)と比べると若干の上昇率縮小が見られました。ただし、12年連続での上昇ということで、全体としては引き続き堅調な相場が続いている印象です。

福岡都市圏では、とくに湾岸部や空港周辺の物流立地が引き続き注目されています。近年の大型物流施設の開発動向を見ると、一部築浅物件を除いて空室は極めて少なく、既存の施設は高稼働が続いています。

また、建築費の高騰というハードルがある一方で、それに見合った賃料水準の上昇も期待できるため、今後も開発・投資のインセンティブは維持される見通しです。

このように、需給バランスのひっ迫が地価の底堅さを支えており、当面は高値圏での安定推移が想定されます。

北九州市:滑走路延長や半導体関連企業誘致で追い風

北九州市における工業地の平均変動率は+6.0%と、前年(+3.4%)から大きく上昇率が拡大しました。これで7年連続の地価上昇となります。

最大の特徴は、北九州空港の存在です。

貴重な24時間運用可能な空港であり、空港周辺の工業団地には以前から物流・製造関連企業の進出が続いています。

現在、北九州空港では大型貨物機の長距離運航に対応するための滑走路延長工事が進められており、将来的にはより広域な物流ネットワークのハブとしての機能が期待されています。

また、ASE(Advanced Semiconductor Engineering)といった半導体後工程企業の誘致も進められており、今後は半導体関連産業の集積地としての可能性も高まっています。

こうした将来性の高さが、工業地の地価にもしっかり反映されているといえるでしょう。

久留米市:着実な地価上昇と物流需要の堅調さ

久留米市では、平均変動率が+5.2%と前年(+4.6%)よりも上昇率が拡大しました。

これで8年連続の上昇となっており、堅調なトレンドが続いています。

この地域では、従来から物流関連施設や中小企業の事業所用地に対する安定的な需要があることに加え、近年は都市高速道路や九州自動車道など交通インフラへのアクセスの良さが再評価されてきています。

立地環境としては福岡市よりも土地取得コストが抑えられるため、コストパフォーマンスの高い拠点として選ばれるケースも増えています。

新規開発地は限られるものの、既存の産業団地においては稼働率の高い状況が続いており、引き続き安定した価格形成がなされている印象です。

大牟田市:TSMC熊本の波及効果がじわりと浸透

大牟田市では、平均変動率が+5.2%となり、前年(+3.8%)から上昇率が拡大しています。これで4年連続の上昇ということになります。

注目は、新大牟田駅産業団地の存在です。

九州新幹線の新大牟田駅に隣接する産業団地として、交通利便性に優れた立地特性が評価されています。

市は現在も企業の公募を積極的に行っており、将来的にはさらなる企業集積が見込まれています。

さらに、臨海部の三池港エリアでは新たな産業団地造成も進められており、港湾物流と鉄道・高速道路の連携によって、今後の物流インフラ拠点としての役割が期待されています。

加えて、熊本県内に進出したTSMCおよびその関連企業が、大牟田市を含む福岡県南部に立地を検討するケースも考えられ、地価に対する期待感が高まりつつある状況です。

志免町:高い利便性と割安感が評価される

福岡市に隣接する志免町でも、非常に特徴的な動きが見られました。

地価公示の工業地は1地点のみですが、その変動率は+19.3%と非常に高水準を記録。

前年の+20.2%と並び、引き続き圧倒的な上昇率を維持しています。

志免町は福岡空港から至近距離にあり、交通利便性が極めて高いという立地特性を有しています。

にもかかわらず、地価水準はまだ福岡市内の主要工業地と比べると割安感があるため、「コストに見合うパフォーマンスが期待できるエリア」として投資家の注目を集めているのです。

将来的な再開発や産業集積の可能性も秘めており、このような大幅な地価上昇は今後も続く可能性があります。

今後の展望:高水準の地価上昇はいつまで続くか

福岡県内の工業地は、全体として「堅調かつ先高感のある市場」と言って差し支えない状況が続いています。ただし、注意すべき点もあります。

例えば、建築費の高止まりや労務費の上昇、あるいは金利動向といったマクロ要因は、投資判断に影響を与える可能性があります。

また、TSMC関連の波及効果についても、どこまで福岡県に直接的な恩恵が及ぶのかについては、慎重な見極めが必要です。

とはいえ、24時間空港を抱える北九州、九州新幹線に直結する新大牟田駅周辺、そして福岡市近郊の志免町など、立地と将来性を兼ね備えたエリアは引き続き要注目です。

開発余地のある工業団地の動向や、賃料の動きにも目を向けつつ、適切なタイミングでの土地取得や投資判断が求められる局面と言えます!


以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑

コメント

コメントする

目次