【解説】地価で見る福岡県の住宅地│令和7年も地価好調。交通利便性が良いエリアでは戸建住宅や分譲マンションの売れ行きが好調。特に福岡市の地価が牽引役に(R7地価公示)

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【執筆・監修】不動産鑑定士 上銘 隆佑
上銘不動産鑑定士事務所 代表

目次

県全体の地価動向|11年連続の上昇も、4年ぶりに上昇率が縮小

福岡県全体の住宅地の地価は、令和7年地価公示において平均変動率+4.9%となり、前年(+5.2%)と比べるとわずかに上昇率が縮小しました。

とはいえ、11年連続で上昇が続いているという点では、福岡県の不動産市場は依然として強い基調を保っていると言えます。

背景には、人口増加が続く福岡市を中心とした都市圏の住宅需要や、相対的に安定している経済環境が挙げられます。

一方で、日銀の政策金利引き上げ建築費の高騰といったコスト面の影響も徐々に顕在化しており、これまでのような高い上昇率を維持するのはやや難しくなってきた印象です。

もっとも、金利上昇といっても変動金利型の住宅ローンは据え置き水準が多く、金融機関の融資スタンスも概ね前向きなまま。

福岡県内の土地取引件数も、令和6年8月以降は概ね前年並みの水準をキープしており、今すぐに市場が冷え込む兆しはありません。


福岡市の住宅地地価|人口増を背景に全国有数の上昇率を維持

区別の変動率と注目ポイント

福岡県全体の地価動向を牽引しているのは、福岡市です。

令和7年地価公示では、平均変動率+9.0%と、前年(+9.6%)に比べるとやや縮小したものの、全国の政令指定都市の中でも圧倒的な人口増加率を背景に、依然として非常に高い上昇率を記録しました。

各区の変動率は以下のとおりです。

  • 東区:+8.8%(前年+8.6%)
  • 博多区:+12.1%(前年+14.8%)
  • 中央区:+8.9%(前年+11.3%)
  • 南区:+8.4%(前年+8.5%)
  • 西区:+8.2%(前年+8.4%)
  • 城南区:+7.7%(前年+8.3%)
  • 早良区:+9.6%(前年+9.7%)

この中で唯一、上昇率が拡大しているのが東区

これは「九大箱崎キャンパス跡地の再開発」への期待が要因と考えられます。その他の区では全体的に上昇率が鈍化しているものの、それでも全国的に見れば非常に高い水準です。

戸建住宅地の傾向

福岡市内の戸建住宅地は、金利の上昇や建築費の高騰の影響を受け、やや上昇率が鈍化しています。

それでもなお、「駅近くで生活利便性の高いエリア」や「地価の割安感が残るエリア」では、堅調な需要が続いており、値下がりどころか高水準の上昇が続いている地点もあります

特に、地下鉄七隈線延伸や再開発の進むエリアは注目されており、実需+投資目的での購入が相まって、引き続き住宅価格の上昇を支えています。

分譲マンション用地の動向

マンション販売も、全般的には好調です。完成在庫も比較的少なく、販売価格は上昇傾向が続いています

なかでも富裕層向けの高価格帯物件では、高い成約率地価の上昇が顕著に見られます。

一方で、素地価格の上昇や建築費高騰、さらに金利上昇の影響を受けて、エリアによっては売れ行きが鈍化し始めているところもあり、地価上昇率がやや落ち着いてきている状況です。


北九州市の地価動向|地価上昇の動きが広がりつつある

北九州市では、令和7年地価公示で平均変動率+1.6%と、前年の+1.2%から4年連続で上昇率が拡大しました。

傾向としては、小倉通勤圏の地勢が緩やかな住宅地や、駅近くのマンション用地を中心に需要が堅調です。

各区の動向は以下のとおり:

  • 戸畑区:+4.1%(前年+2.9%)
  • 八幡西区:+3.2%(前年+2.3%)
  • 八幡東区:+1.3%(前年+0.7%)
  • 小倉南区:+0.8%(前年+0.7%)
  • 小倉北区:+1.7%(前年+1.9%)
  • 若松区:+0.4%(前年+0.4%)
  • 門司区:▲0.2%(前年▲0.3%)

傾斜地が多く人口減少が著しい門司区では依然として下落が続いている一方、戸畑区や八幡西区など人気住宅地を有する区では、地価上昇が続いています

また、小倉駅徒歩圏のマンション用地などは相変わらず競争が激しく、今後も一定の需要は見込まれます。


久留米市・大牟田市|地域差はあるが堅調な動きも

久留米市

福岡市への通勤も可能な久留米市では、平均変動率+2.0%(前年+2.1%)と、やや上昇率が縮小したものの、11年連続で上昇しています。

豪雨災害の影響を受けたエリアを除けば、住宅地の地価は安定しており、駅近・利便性の高いエリアを中心に戸建・マンション用地ともに需要は堅調です。

大牟田市

長らく下落傾向が続いていた大牟田市では、令和7年地価公示において平均変動率±0.0%(前年▲0.1%)となり、実に27年ぶりに地価下落から脱却しました。

高齢化や人口減少という厳しい現実はあるものの、交通利便性のある地点や都市機能の集まるエリアでは価格の下げ止まりや上昇に転じる地点も徐々に増えつつあります


福岡都市圏の周辺都市|地価上昇の鈍化に要注意

福岡市のベッドタウンとして人気のある周辺市町では、引き続き堅調な地価上昇が続いていますが、その勢いは少しずつ落ち着いてきています。

古賀市|割安感の残る人気エリア

古賀市は前年の+14.2%から+10.0%へと上昇率はやや鈍化したものの、それでも2年連続の2桁上昇となりました。

JR鹿児島本線の駅が3つあり、博多駅へのアクセスも良好。近隣の福津市や新宮町と比べて割安感が残っていることから、引き続き人気のエリアです。

春日市・大野城市・太宰府市・筑紫野市

これらの市はいずれも西鉄天神大牟田線の沿線上に位置し、JRのアクセスも良好なエリア。令和7年地価公示の変動率は以下の通りです。

  • 春日市:+5.5%(前年+6.2%)
  • 大野城市:+7.9%(前年+8.7%)
  • 太宰府市:+5.8%(前年+7.1%)
  • 筑紫野市:+5.0%(前年+8.6%)

福岡市と比較した場合の地価の割安感が徐々に薄れてきたことや、建築費の高騰、金利の影響が重なり、全体として上昇率は縮小傾向となっています。

それでも生活利便性が高く、ファミリー層からの人気は根強いです


まとめ|地価高騰で今後のファミリー世帯の購買力に注目

福岡県の住宅地における地価は、令和7年も引き続き堅調な上昇トレンドを維持しています。

中でも、人口増加が顕著な福岡市とその周辺地域は今後も注目エリアです。

ただし、金利や建築費など、価格形成に影響を与える外部要因も増えており、今後は物件や立地によって明確に明暗が分かれる局面も出てくるでしょう。

特に、実務上では次のようなポイントに注目しておくことが重要です。

  • 金利の動向と住宅ローン利用者の購買力
  • 建築費やマンション素地価格の動向
  • 再開発や交通インフラ整備の進捗状況
  • 割安感が残るエリアの特定と将来性評価

不動産に関わる専門職や投資家の方にとって、一時の地価の数字だけでなく、その背後にある需給構造やエリアごとの文脈を読み解く力がますます求められる時代になってきています。

私自身も、福岡市だけでなく、関東や関西との相対的な比較も忘れずに、日々地価の情報収集を継続しています!


以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑

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