
令和7年の地価公示が発表され、山口県内でも住宅地・商業地ともに価格が上昇しました。
住宅地はこれで4年連続、商業地は2年連続の上昇です。
都市圏に近く、再開発が進むエリアを中心に、需要の堅調さが目立つ一方、エリアによっては横ばい、あるいは下落傾向の地点もあり、立地条件による“二極化”が見え始めているのが令和7年地価公示の特徴と言えそうです。
不動産鑑定士として感じるのは「全体として堅調だが、選ばれる土地とそうでない土地の二極化」が顕著という点です。
山陽エリアの駅周辺では、地価が着実に上昇している一方、過疎化が進行する地域では価格が維持できずに下落している地点も見られます。
県全体の調査対象は304地点。
住宅地の平均価格は3万5700円で、対前年平均変動率は+0.7%。
商業地は平均価格6万3400円で、同じく+0.7%となっています。派手な数字ではありませんが、まさに「底堅い」という結果です。
岩国市・山口市・周南市が住宅地の上昇を牽引
住宅地の中で最も高い価格を記録したのは、岩国市今津町4丁目の9万2900円/㎡でした。
そして、最も高い上昇率を記録したのも同じく岩国市の南岩国町3丁目で、+3.6%という堅調な動きとなりました。
岩国市は広島県との県境に位置しており、いわゆる「広島都市圏の延長線上」として住宅需要が根強くあります。
岩国錦帯橋空港の存在や米軍基地の影響もあり、地域としての知名度や利便性は高い水準を維持しています。
また、山口市では、新山口駅周辺を中心に再開発が進んでおり、都市機能の集約とバスターミナルの整備が地価の下支え要因となっています。
特に、山口市中心部では近年大型商業施設の集積が再び見直されており、県内中核都市としてのポジションを改めて確立しようという動きも見えます。
周南市では徳山駅周辺の再整備に伴って、住宅地の需要が安定しています。
駅前マンションの分譲や再開発によって人の流れが集まり、地価の押し上げ要因になっています。
これらのエリアに共通するのは「交通利便性」「行政主導の都市整備」「周辺商業施設の集積」という3点で、地価が上昇しやすい典型的な要素が揃っているのが特徴です。
二極化する住宅地:下関市・長門市・萩市などでは横ばいまたは小幅な下落
一方で、全体の平均が+0.7%であるにもかかわらず、横ばい、もしくは微減にとどまっている地点も多くあります。
とくに西部の長門市、萩市などでは、人口減少と高齢化によって住宅需要が減少し、地価の維持が難しい地域も少なくありません。
また、下関市では交通利便性の高い中心市街地(新下関・下関駅前など)を除いて、郊外エリアでは地価の伸び悩みが目立ちます。
これは住宅需要の中心がコンパクトな生活圏にシフトしていることを意味しており、「広くて安い」土地の価値が以前よりも相対的に下がってきていることが影響しています。
こうした背景からも、「どこでも地価が上がる」時代ではなくなり、交通・商業・教育・医療などのインフラが整っているエリアに、価格と需要が集中する二極化がより鮮明になってきていると感じます。
商業地:下関市・周南市・山口市が安定した上昇傾向
商業地の地価も、前年に続き2年連続で上昇しました。
最も価格が高かったのは下関市竹崎町4丁目の18万5000円/㎡。JR下関駅前という立地で、商業施設やビジネスホテルが集積するエリアです。
一方、最も高い上昇率を記録したのは周南市御幸通2丁目の+4.3%でした。
このエリアは徳山駅から徒歩圏にあり、再開発事業が進む中で、飲食店舗や医療系テナントの進出が進んでいます。
山口市においても、新山口駅周辺の商業地で上昇が見られました。
特に、新幹線駅と在来線駅が合流する交通結節点としての価値が再認識されており、駅周辺にはホテル・コンビニ・飲食店などの出店が活発です。
こうしたエリアに共通するのは、「再開発」や「駅前立地」「商業集積」といった商業活動の核がしっかりと存在している点で、地価の上昇にも納得感があります。
和木町や下松市、防府市にも注目したい
山口県のなかでも意外と見落とされがちなのが、和木町や下松市といった中小都市です。
和木町は面積こそ小さいものの、広島県大竹市と隣接し、JR和木駅からのアクセスも良好。
大手企業の工場や製油所も立地しており、一定の就業人口があります。
住宅地としての需要も安定しており、地価の下支え要因になっています。
下松市は、山陽本線や国道2号線沿いに商業施設が集中しており、郊外型店舗の出店が進んでいます。
県内のなかでは地価の水準こそ中程度ですが、生活利便性の高さから移住先としての評価も高まりつつあり、今後の地価の動きには注目です。
防府市もまた、山口市と周南市の中間に位置し、交通・物流の拠点としての機能があります。
山陽本線の特急停車駅を抱え、商業地の中心性も保たれており、地価の安定感は強い地域です。
北九州都市圏との関係性もじわじわと影響
山口県西部、特に下関市や宇部市などは、福岡県の北九州市と地理的にも経済的にも深い結びつきがあります。
とくに下関市では、北九州都市圏の住宅地・商業地の上昇が波及する形で地価が下支えされている印象を受けます。
北九州市では住宅供給が限られてきており、比較的価格が抑えられている下関市への流入が続いています。
また、通勤圏内として認識されていることもあり、今後も地価に対する影響は持続すると考えられます。
地価を左右するのは「価格」よりも「立地条件」へ
不動産鑑定の現場においても最近よく感じるのが、「地価の上昇を支えているのは価格の安さではなく、立地条件の良さを求める需要」であるという点です。
特に富裕層や法人投資家の目線では、価格よりも利便性・安全性・将来性といった「立地の質」がより重視される傾向が強まっています。
令和7年の地価公示でも、そうした傾向が数値として明確に現れました。
再開発エリアや駅周辺のような「選ばれる立地」は着実に評価を高めている一方で、人口減少や商業空洞化の進む地域では、地価が思うように回復していないのが実情です。
節約志向の一般消費者と、立地重視の富裕層。この構図が今後ますます明確になっていくことで、地価の二極化はより進行していくと考えられます。
おわりに:山陽エリアのポテンシャルと課題
山口県は福岡・広島という都市圏に挟まれた立地にあり、その中間地点としてのバランスに優れた地域です。
徳山駅・新山口駅といった主要駅周辺の再開発は、地域にとって大きなチャンスであり、地価上昇の追い風となっています。
一方で、地価の動向を見ていく上では、「需要が続くエリア」と「衰退が進むエリア」の線引きがこれまで以上に重要になってきています。
不動産の評価や投資判断においても、立地条件やエリア特性を的確に読み取る目がこれまで以上に求められるようになってきているといえるでしょう。
今後も、再開発やインフラ整備、都市間の連携といった取り組みによって、山口県の地価はさらに多様な動きを見せていくはずです。
地価公示の数字を「平均値」として見るのではなく、個別地点の地価の意味や背景まで丁寧に読み解くことが不動産鑑定士に求められると感じます!
以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑
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