【解説】地価で見る長崎県の住宅地│長崎市内は平坦地が人気。西九州新幹線の開業で大村市の地価が好調(R7地価公示)

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【執筆・監修】不動産鑑定士 上銘 隆佑
上銘不動産鑑定士事務所 代表

長崎県の令和7年地価公示における住宅地の地価動向は、県全体として穏やかながらも堅調な上昇基調+1.1%を示しており、都市部を中心に需要の回復と新たな投資需要が見られています。

特に、西九州新幹線の開業によって交通利便性が飛躍的に向上した大村市では、地価の上昇率が県内でも突出しており、今後の宅地開発の進展にも注目が集まります。

本記事では、令和7年の地価公示データをもとに、長崎県の住宅地の地価動向を地域別に分析し、今後の展望について不動産鑑定士の視点から書いていきます。

目次

県全体の動向|利便性の高い地域を中心に地価が堅調

まず、県全体の地価動向から見てみると、長崎県の住宅地平均変動率は+0.9%(令和6年)から+1.1%(令和7年)へと上昇幅が拡大しました。

都市部においては利便性の高さや人口集中の傾向が背景にあり、安定した地価上昇を支えています。

一方で、離島部や山間部などの郡部においては、依然として人口減少や高齢化の影響が強く、地価は全体としては横ばいから微減にとどまる地域も少なくありません。

ただ、横ばいとなる市町も昨年より増えてきており、これまで下落傾向にあった地域にも地価の下げ止まりが見られるなど、明るい兆しも一部にあります。

住宅地の需要については、物価高や建築資材の価格高騰によって、新築住宅から中古住宅へのシフトが進んでいることも影響しています。

また、土地取得コストを抑える動きから、中低価格帯や築年数が経過した団地の再評価が進んでいる点も注目されます。

長崎市|平坦地の人気と中古住宅への回帰

長崎県の県庁所在地である長崎市では、令和7年の住宅地平均変動率は+1.2%(前年+1.3%)とわずかに減速したものの、地価の上昇傾向は依然として継続しています。

継続観測地点57地点のうち、上昇地点が42地点(前年40地点)、下落地点が11地点(前年14地点)と、上昇地点が増加し、下落地点は減少。住宅地全体として堅調な推移が見られます。

特に人気があるのは、利便性の高い平坦地です。

長崎市は地形的に斜面地が多く、車両が入れない「階段道路」に面した住宅地などは需要が極端に弱い一方で、バスや鉄道、商業施設へのアクセスが良好な平坦地には高い需要が根強く、地価の支えとなっています。

また、最近では建築コストの上昇を受けて新築住宅から中古住宅への需要の転換も進み、中古市場の動きが活発化。価格の抑えられた団地や古家付土地への問い合わせが増えているという声も聞かれます。

なお、中心市街地における高価格帯住宅地の一部では上昇率の鈍化も見られ、需要の過熱感はやや一服している印象もありますが、住宅地全体では依然として底堅い需要が続いています。

佐世保市|郊外住宅地にも波及する需要

長崎県第2の都市・佐世保市の住宅地平均変動率は+1.9%(前年+1.5%)と上昇率が拡大しました。

特に市街地周辺や大型商業施設に近接する住宅地では高い需要が維持されており、価格は堅調に推移しています。

また、中心部の地価上昇に伴い、これまで比較的割安感のあった郊外エリアでも宅地需要が波及し、再開発や宅地造成が進むエリアも出てきています。交通アクセスや生活利便性の改善によって、市内の多くの地域で需要回復の兆しが見られます。

佐世保市のベッドタウンである佐々町も+2.6%(前年+2.0%)と上昇率が拡大しており、地価の割安感と西九州自動車道の4車線化など交通整備による利便性向上が評価されています。

諫早市|駅周辺を中心に堅調な回復基調

諫早市の住宅地も堅調な上昇が続いており、令和7年の変動率は+2.9%(前年+1.8%)と大幅に拡大しました。

特に注目されるのが西諫早駅周辺を中心とした市街地エリアで、交通利便性と生活環境のバランスが良く、近年は子育て世帯やリタイア後の移住先としての人気も高まっています。

こうした安定した需要が、地価の押し上げ要因となっています。

また、他の長崎県内の都市に比べて比較的フラットな地形を有することから、住宅地としての優位性が評価される傾向にあります。

大村市|西九州新幹線の恩恵を受け地価上昇が加速

令和7年において、長崎県内で最も地価の上昇が目立ったのが大村市です。住宅地の変動率は+3.5%(前年+2.4%)と大きく拡大し、県内で最も高い上昇率を記録しました。

その要因として最も大きいのが、西九州新幹線の開業に伴う「新大村」駅の開設です。在来線の「大村車両基地」「新大村」駅と連携した公共交通ネットワークの整備により、通勤・通学の利便性が飛躍的に向上。これにより新たな人口流入が発生し、住宅地の需要を押し上げる要因となっています。

今後は新幹線駅周辺での宅地開発がさらに活発化する見込みであり、大村市は長崎県内での注目エリアとして投資対象としても引き続き関心が集まりそうです。

長与町・時津町|長崎市のベッドタウンとして高評価

長崎市の西側に位置する長与町・時津町は、長年にわたり長崎市のベッドタウンとして発展してきた地域で、近年は住み心地ランキングでも上位に名を連ねるなど、定住地としての評価が高まっています。

長与町は+1.8%(前年+1.7%)、時津町は+2.5%(前年+2.5%)と、堅調な地価の上昇が継続。特に時津町では大型商業施設の集積やファミリー層向けの新築物件の供給が進み、人気を集めています。

平坦で暮らしやすい立地、学校や医療機関の充実なども、安定した地価上昇を支える要因です。

その他の地域|波佐見町、川棚町などの回復傾向

それ以外の地域にも、地価回復の兆しが見られます。

波佐見町は+0.7%(前年0.0%)と横ばいから上昇に転じました。

商業施設や町役場周辺の利便性の高いエリアでは、ミニ開発も見られ、一定の需要が確認されています。佐世保市への通勤圏内である点もプラス材料です。

また、川棚町も+0.1%(前年-0.2%)とわずかながら上昇に転じており、周辺市町の地価上昇の波及効果が見て取れます。商業施設周辺では特に地価の回復が顕著です。

地価の二極化と今後の展望

全体として、長崎県の住宅地市場は、都市部や交通利便性の高い地域を中心に堅調な上昇が見られる一方で、地形条件が悪くアクセスに課題のある地域や、人口減少が顕著な地域では地価の下落傾向が続いており、地域間の地価格差(いわゆる“二極化”)が進んでいることがわかります。

今後は、西九州新幹線の波及効果がさらに広がりを見せる可能性があり、特に大村市を中心とする沿線地域の宅地開発や商業施設誘致の動向には注目が集まります。

一方で、長崎市のように、平坦地の希少性が価格を下支えするケースや、時津町・長与町のようにベッドタウンとしての安定的な需要を背景に、今後も緩やかな地価上昇が見込まれるエリアも少なくありません。

人口減少という全国的な課題のなかで、今後の地価動向は地域ごとの開発計画、交通インフラの改善、そして居住ニーズの多様化といった要素に左右される場面が増えていくと考えられます。

実需と投資需要の両面から、より丁寧な地域の分析が求められるフェーズに入っているといえます。
特に長崎は、西九州新幹線の影響を大きく受けるので、注目しています!


以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑

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