
この記事は、下記の後半となります。

こんにちは、不動産鑑定士の上銘です。
前編では、福岡市のオフィス市況と地価動向を中心にお伝えしました。
後編では視点を変えて、「収益性」や「投資家目線」で福岡の不動産を見ていきます。
不動産は収益性を重視されて取引されることが多く、実務でも収益物件に関わることが多いです。
ホテル市場の動きや私募リートの存在感、そして還元利回りの水準まで、評価実務で感じるリアルな市況感を書きたいと思います。
福岡のホテル市場が持つ強さ

福岡市は観光・ビジネス両面での宿泊需要が高く、コロナ以降のホテルマーケットは他都市に比べて回復が早かったです。
福岡空港から市街地まで地下鉄で約10分、ドームやイベント施設のほか、博多港や新幹線などの交通インフラも充実しており、年間を通じて稼働が見込める都市です。
近年ではADR(平均客室販売単価)の上昇と、稼働率(OCC)の高さが評価の軸となっており、変動賃料型のホテルも投資対象として再評価されています。
「ヒルトン福岡シーホーク」のようなランドマーク型ホテルは注目度が高く、宿泊単価の上昇や多用途収益(宴会、レストランなど)も加味した鑑定評価が行われます。
また、福岡中心部のホテルは、稼働率(OCC)90%前後で推移しており、既に高稼働です。更なるADRの上昇も考えられる水準です。
ホテル評価における還元利回り
ホテルの収益還元法の鑑定評価では、
- ADRと稼働率から得られる収益性の分析
- 過去の稼働実績と今後の回復シナリオ
- 運営者との契約内容(固定・変動賃料の割合)
が重要になります。
今後はインバウンド需要の更なる伸びやイベント開催数の増加も予想され、今以上に収益評価が上振れする可能性もあります。
私募リートの積極展開と物件選定の視点

福岡市ではここ数年、私募リート立ち上げが増えています。
既に運用開始しているのは、
- JR九州プライベートリート投資法人(JR九州)
- FJプライベートリート投資法人(福岡地所)
です。
また、現在立ち上げ準備中と公表されているのが、
- 西日本鉄道(西鉄アセットマネジメント株式会社)
- 九州電力(九電都市開発投資顧問株式会社)
の二社です。どちらも福岡大手の企業なので、組み入れ物件に注目しています。
REIT取得事例の直近事例(還元利回り)

福岡では不動産証券化の仕組み(REIT)を利用した収益物件の購入が多いです。
直近、福岡市における取得事例です。
- アクシオン大手門プレミアム
投資法人:福岡リート投資法人
用途:ハイグレード賃貸マンション
鑑定評価額:18.1億円
還元利回り:3.4%
取得日:2025年3月28日 - ヒルトン福岡シーホーク
投資法人:ジャパン・ホテル・リート投資法人
用途:フルサービス型ホテル
鑑定評価額:717.0億円
還元利回り:4.3%
取得日:2025年2月21日 - キテラタウン福岡長浜
投資法人:KDX不動産投資法人
用途:都市型の商業施設
鑑定評価額:60.8億円
還元利回り:4.2%
取得日:2023年11月1日
異なる用途ですが、いずれも安定収益を見込める優良立地に立地しており、鑑定評価額や利回りの設定にも投資家の選好が反映されています。
アクシオン大手門プレミアムは、好立地であり、利回りが低いです。
ヒルトン福岡シーホークは、福岡市内で最大級に高額な物件です。
キテラタウン福岡長浜は、最近珍しい商業系の物件取得事例です!
賃貸マンション評価に見る新しい潮流
福岡市では、分譲マンションだけでなく、賃貸用マンションの収益評価も注目されています。
特に都心部では、
- 単身者向け高収益マンション
- 高グレード・ファミリー層向け物件
- サブリース契約付き物件
などが、収益還元法による評価対象となることが増えました。
アクシオン大手門プレミアムのように、分譲と同等レベルの仕様で供給された賃貸物件は、表面利回りが抑えられていても安定性が高く、長期保有を前提とする投資家に好まれています。
還元利回り設定の実務的な考え方
福岡市における還元利回りのレンジ感は、下記の水準です(REIT取得事例からおよそ算定)。
- オフィス:3.5%〜4.5%
- 賃貸マンション:3.5〜4.0%
- 商業施設:3.5〜4.5%
- ホテル:4.0〜4.8%
実務での還元利回りでは、
- 市場における取引事例
- 投資家の資金調達環境(ローン金利)
- 想定運営コストと収益変動リスク
- 地域の需給関係や再開発の影響
などを織り込んで査定します。
特に福岡では、同じエリアでも物件グレードや収益構造によって利回りが微妙に異なり、実務での目利きが問われるポイントです。
まとめ│還元利回りの低下・ホテルADR高騰など、不動産市況が変化。

福岡市内の収益物件は全体的に利回りが低下しています。
「大阪より低いのでは?」という声を聞くこともあります。
また、ホテルADR高騰、私募リートの立ち上げも大きなニュースです。
福岡市は今後も開発が続き、地価や収益の構造にも変化が起きていきます。
だからこそ、実務視点を大切に、これからも市場を観察していきたいと思います。
この記事が、不動産の評価や証券化に関わる方の一助になれば幸いです。
以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑
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