
2025年、福岡の不動産投資市場は活発でした。
特にJ-REIT(不動産投資信託)による取得事例を見ると、その傾向は明らかです。
「ホテルの完全復活」と「優良資産への資金集中」。
インバウンド需要の回復を背景に、運営好調なホテルへの投資が急増した一方で、オフィスや商業施設では「立地」と「規模」を厳選した取得が目立ちました。
また、住宅(レジデンス)は価格高騰により利回りが低下しており、取得難易度が上がっている状況も浮き彫りになっています。
本記事では、2025年(および2026年初頭)に公表・実行された福岡エリアのJ-REIT取得事例を全件リストアップし、アセットタイプごとの傾向と利回り(Cap Rate)水準について、不動産鑑定士の視点で解説します。
2025年 福岡エリア J-REIT取得物件一覧
まずは、具体的な取引データを一覧で確認します。
今年の特徴は、なんといっても「ヒルトン福岡シーホーク」の巨額取引を含む、ホテルセクターの多さです。
| 物件名 | 用途 | 取得日 | 取得価格 | 取得時 鑑定CR | 投資法人 | 所在地 | 竣工年月 | 延床面積 (坪) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ザ・ワンファイブマリン福岡 | ホテル | 2025/1 | 26.0億円 | 4.2% | いちごホテル | 博多区奈良屋町 | 1993/03 | 581.26 |
| ネストホテル博多駅前 | ホテル | 2025/2 | 65.0億円 | 4.1% | いちごホテル | 博多区博多駅前 | 2018/01 | 1,109.93 |
| ヒルトン福岡シーホーク | ホテル | 2025/2 | 643.5億円 | 4.3% | ジャパン・ホテル | 中央区地行浜 | 1995/04 | 42,640.06 |
| アクシオン大手門プレミアム | 住宅 | 2025/3 | 18.0億円 | 3.4% | 福岡リート | 中央区大手門 | 2018/01 | 636.79 |
| レソラサウステラス | 商業 | 2025/3 | 53.0億円 | 3.6% | ユナイテッド | 中央区今泉 | 2013/08 | 1,776.45 |
| &HOTEL HAKATA | ホテル | 2025/6 | 38.0億円 | 4.0% | 野村マスター | 博多区冷泉町 | 2021/06 | 585.05 |
| seven x seven 糸島 | ホテル | 2025/8 | 52.3億円 | 4.9% | 霞ヶ関ホテル | 西区大字西浦 | 2023/09 | 1,024.48 |
| 富士ソフト新福岡ビル | オフィス | 2025/9 | 56.9億円 | 3.9% | 日本都市ファンド | 博多区博多駅東 | 2024/06 | 2,539.30 |
| 福岡Kスクエア ※1 | オフィス | 2025/11 | 148.6億円 | 3.4% | グローバル・ワン | 博多区中洲中島町 | 2023/06 | 4,733.40 |
| アパホテル〈博多駅前 4 丁目〉 | ホテル | 2025/12 | 39.3億円 | 3.9% | 日本ホテル&レジ | 博多区博多駅前 | 2000/09 | 568.56 |
| キャンパステラス九大学研都市 | 住宅 | 2026/3 | 32.0億円 | 4.0% | 三井アコモ | 西区北原 | 2024/03 | 1,731.57 |
※1:福岡Kスクエアの所有形態は準共有持分 83%
セクター別詳細分析
ここからは、「ホテル」「オフィス」「商業」「住宅」の4つのセクターに分けて、市場の動きを紐解いていきます。
1. ホテル:運営好調で投資マネーが集中
今回リストアップした11物件のうち、過半数となる6物件がホテルでした。
取得時鑑定NOI利回り(CR)は3.9%〜4.9%のレンジで推移しており、投資家の強い意欲が感じられます。
ランドマークの巨額取引「ヒルトン福岡シーホーク」
最大のトピックは、ジャパン・ホテル・リート投資法人による「ヒルトン福岡シーホーク」の取得(643.5億円)といえます。
福岡ドームに隣接するこの象徴的なホテルは、MICE需要やコンサート需要を一手に引き受けるポテンシャルを持っています。
築年数は経過していますが(1995年竣工)、取得時CR 4.3%という水準は、今後のインバウンド需要や客室単価(ADR)の上昇余地を織り込んだ評価と言えます。
博多駅周辺・中洲エリアの底堅さ
「ネストホテル博多駅前(65億円)」「&HOTEL HAKATA(38億円)」「アパホテル〈博多駅前 4 丁目〉(39.3億円)」など、博多駅や中洲・冷泉町エリアの宿泊特化型ホテルの取引も相次ぎました。
福岡空港から地下鉄ですぐという博多の地理的優位性は揺るぎなく、ビジネス・観光の両面で稼働率が高止まりしていることが背景にあります。
これらの利回りは4.0%前後に収斂しており、安定資産として認識されつつあります。
リゾート需要の拡大「seven x seven 糸島」
福岡市中心部だけでなく、西区(糸島エリア)のリゾートホテルが取得されたことも注目です。
CR 4.9%と、都心部のホテルに比べてやや高い利回りが設定されていますが、これは「都心からの距離」というリスクプレミアムが乗っているためです。
しかし、糸島エリアのブランド力向上に伴い、投資対象エリアが郊外へ拡大している好例と言えるでしょう。
2. オフィス:大規模・築浅への選別投資
オフィスビルに関しては、件数こそ少ないものの、1件あたりの規模が大きく、質の高いビルが選好されています。
希少なSクラスビル「福岡Kスクエア」
グローバル・ワン投資法人が取得した「福岡Kスクエア」は、2023年竣工の築浅ビルです。
取得価格は約148億円(持分83%)にのぼり、取得時CRは3.4%と非常にタイトな水準です。
これは、東京都心のプライムビルに肉薄する利回り水準であり、福岡のオフィス市場がいかに高く評価されているかを示しています。
「天神ビッグバン」や「博多コネクティッド」による供給増が懸念される局面もありましたが、蓋を開けてみれば、ハイスペックな築浅ビルへの需要は旺盛で、空室リスクよりも資産価値の上昇期待が勝っている状況です。
博多駅東の再開発エリア「富士ソフト新福岡ビル」
博多駅東エリアに位置するこのビルも2024年竣工の新しい物件です。
CR 3.9%での取得となっており、博多駅筑紫口側のビジネス街としての底堅さを証明しています。
3. 商業施設:一等地・都市型商業の強さ
商業施設は「レソラサウステラス」の1件でした。
天神・今泉エリアのブランド力
ユナイテッド・アーバン投資法人が取得したこの物件は、天神の南側、今泉エリアに位置します。
カフェ・結婚式場などが入居している施設であり、取得時CRは3.6%と、商業施設としては低い水準(=高価格)です。
Eコマースの台頭で郊外型商業施設の評価が厳しくなる中、天神周辺のような「人が集まる・回遊する」一等地の路面店ビルは、依然として代替不可能な資産として高値で取引されています。
4. 住宅(レジデンス):利回り低下で取得難易度が上昇
住宅セクターは「アクシオン大手門プレミアム」と「キャンパステラス九大学研都市」の2件です。
ここでの注目は「利回りの低さ」です。
3.4%という利回り
福岡リート投資法人が取得した「アクシオン大手門プレミアム」の取得時CRは3.4%。
これは、今回のリストの中で最も低い数値(福岡Kスクエアと同率)です。
住宅は景気変動の影響を受けにくく、賃料収入が安定しているため「ディフェンシブ・アセット」と呼ばれます。
しかし、福岡市内のマンション価格高騰により、投資利回りは極限まで圧縮されています。
3%台前半となると、借入金利とのスプレッド(利ざや)を確保するのが難しくなってきており、REIT側も「立地が良い」「築浅である」といった好条件が揃わない限り、手が出しにくい状況です。
学生レジデンスという選択肢
一方、三井不動産アコモデーションファンド投資法人が2026年3月に取得予定の「キャンパステラス九大学研都市」は、九州大学の移転で発展したエリアにある学生マンションです。
CR 4.0%と、都心のファミリータイプに比べて利回りが確保できています。
単純な賃貸マンションの取得が難しくなる中、こうした「学生寮」「ヘルスケア」といったオペレーショナルな要素を持つ住宅への分散投資が進んでいます。
2026年に向けた市場展望
2025年の取引事例から見えてくるのは、「福岡不動産市場の二極化と成熟」です。
- ホテルの復権:インバウンド需要を取り込めるホテルは、今後も強気の価格形成が続くでしょう。
- オフィスの選別:築浅・大規模・高機能なオフィスは3%台の利回りでも取引されますが、中小規模の古いビルは選別が進む可能性があります。
- 住宅の「利回り3%台」定着:福岡市中心部の住宅利回りは、もはや東京圏の準都心エリアと同等レベルです。キャピタルゲイン狙いの個人の動きとは異なり、インカムゲイン(賃料)重視のREITにとっては、新規取得が難しいフェーズが続きます。
鑑定評価への影響
私たち不動産鑑定士の実務においても、これらのJ-REIT取引事例は重要な指標(ベンチマーク)となります。
特に、「ヒルトン福岡シーホーク」のような特殊なホテルの取引利回りや、「Kスクエア」のような3.4%というキャップレートは、福岡都心部の優良物件を評価する際の「上限価格の目安」として意識せざるを得ません。
一方で、これらはあくまで「プロ中のプロ」である投資法人が、優良物件を厳選して購入した事例です。
一般的な個人間売買や、条件が少し劣る物件の評価において、この利回りをそのまま適用することは危険です。
物件ごとの「個別性(築年数、接道、テナント属性など)」を見極め、適切なプレミアム(リスク分の上乗せ)を加味する必要があります。
最後に
「自分の持っている不動産は、今の市場でどれくらいの利回りで評価されるのか?」
「家賃の水準は、どのくらい上がってきているのか?今の家賃は適正か?」
「相続税評価額と、実際の時価(売れる価格)にはどれくらいの乖離があるのか?」
これらを知ることは、資産防衛の第一歩です。
J-REITの事例に見られるような最新の市場動向を踏まえ、上銘不動産鑑定士事務所では、精度の高い鑑定評価・価格調査を提供しております。
福岡の不動産評価、証券化案件、賃料交渉などのご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
この記事の執筆者

不動産鑑定士 上銘 隆佑
Ryusuke Joumei
上銘不動産鑑定士事務所代表。
大和不動産鑑定株式会社東京本社に入社し、2019年に不動産鑑定士登録(第10401号)。国内系不動産アセットマネジメント会社への出向を経て、大和不動産鑑定株式会社九州支社へ赴任。
適正家賃、関係者間売買、証券化対象不動産、銀行の担保不動産、公有地の売買に係る不動産鑑定評価を中心に、不動産鑑定評価に携わる。
不動産鑑定業 福岡県知事 第(1)-347号
info@jkantei-office.com
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