【解説】不動産マーケットレポート(福岡市版)、前編│公示地価とオフィス市況。ワンビル竣工でオフィス空室率に注目。

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【執筆・監修】不動産鑑定士 上銘 隆佑
上銘不動産鑑定士事務所 代表

こんにちは、不動産鑑定士の上銘です。

2025年5月1日で「上銘不動産鑑定士事務所」が一周年を迎えました。

一年、無事にやってこれました。想像よりも時間が経つのが早いですね。

ありがたいことに仕事を頂けていますが、より色々な方に「上銘鑑定」を知ってもらえるように、不動産情報の収集に努めます。

今回は、私が日々の評価実務のなかで見えてきた「福岡市の不動産マーケット」について、わかりやすくまとめていきたいと思います。

この前編では、特に福岡市のオフィス市況と地価動向に焦点を当てて、最近の開発事業や価格水準を実務目線で整理していきます。


専門用語にはできるだけ補足を加えながら、不動産業界に関わる方や、これから不動産投資・評価に興味を持ちたいという方にも読みやすい内容で書きたいと思います。

目次

福岡市の不動産が注目される背景

福岡市は、ここ数年で土地価格が全国的にも非常に高い上昇率を記録しています。


令和7年地価公示によると、福岡市の住宅地は前年比+9.0%、商業地+11.3%と、いずれも東京23区(住宅地+3.4%、商業地+1.6%)を大きく上回る変動率となっています。

なぜこれほどまでに福岡の地価は上がっているのか。

その要因として挙げられるのが、東京・大阪と比べて価格水準がまだ割安であるということ、そして「都市としての成長力」に対する期待かと思います。

天神ビックバンという都市再構築プロジェクト

福岡市の都心部における大規模再開発といえば、「天神ビックバン」です。

このプロジェクトは、天神エリアの老朽化ビルを順次建て替えていく官民連携の再開発事業で、いままさに、福岡の都市構造を大きく塗り替えつつあります。

その象徴的な存在となるのが、「ワン・フクオカ・ビルディング」です。

2025年4月に竣工したばかりで、旧・天神コアの跡地に建設されたものです。

地下鉄空港線「天神」駅直結という最高の立地。オフィス・商業・ホテルの複合用途を持つ、まさに“福岡の顔”となる建物です。

これに続いて、「イムズ跡地(仮称)」や「天神ビジネスセンター2期(仮称)」の竣工も予定されており、天神ビックバンはまだまだ進行中です。

供給増による空室率上昇と、強気の賃料水準

一方で、ここまで大規模なオフィスの供給が続くと、当然ながら短期的には空室率が上昇します。

たとえば、三鬼商事のデータによると、福岡市内の新築オフィスの空室率は48.8%(2025年3月時点)と高水準。

一見すると需給バランスが崩れているようにも見えます。

しかし、実際の評価実務や市場関係者へのヒアリングを通して感じるのは、フリーレントや柔軟な条件設定により、徐々に吸収が進んでいるという点です。

新築オフィスの募集賃料はおおむね3万円/坪前後と、東京・大阪と比べても引けを取らない水準にあります。

既存オフィスの平均賃料も前年比+2.9%と上昇しており、全体的には「値下げによる空室解消」というよりも、「しっかり価値を示して入居を促す」方向性が強い印象です。

ワン・フクオカ・ビルディングとイムズ跡地の評価視点

不動産鑑定士としてこうした再開発ビルを評価する際、特に注意を払うのは以下のような点です。

  • エリアにおける“象徴性”やランドマーク性
  • 利用用途のバランス(オフィス、商業、ホテル)
  • 賃料収入の安定性と成約状況
  • 周辺の既存建物との競合状況

天神一丁目に位置するワン・フクオカ・ビルディングは、立地的にもビルグレード的にも最上級の水準にあるため、今後の評価では還元利回りの設定が焦点になります。
(※還元利回りはキャップレートとも言われ、利回りが低いほど収益価格は高くなります。)

また、イムズ跡地(仮称)は三菱地所が事業主体となり、商業・ホテル・オフィスの複合開発が計画されています。

こうした用途のバランスの取れた再開発は、将来的にも多用途の需要に対応できるため、市場からの評価も高まる傾向があります。

令和7年地価公示の注目地点

次に、令和7年の地価公示結果を踏まえ、特徴的な地点についていくつか紹介します。

まずは「福岡市中央区大濠一丁目」の地点。

ここは言わずと知れた福岡市でも屈指の高級住宅地で、大濠公園に隣接することで知られています。

2025年の公示価格は1,310,000円/㎡で、前年比+14.9%という非常に高い伸びを示しています。

次に「福岡市中央区天神一丁目」の地点。
こちらは商業用途の地価としては最高水準の12,100,000円/㎡を記録しましたが、上昇率は+2.5%にとどまりました。

これは、新築オフィス供給の影響による空室率の上昇や、投資利回りの下げ止まりといった要因が影響していると見られます。

注目エリア:箱崎と九大跡地の再開発

地価上昇率で最も注目を集めたのが、福岡市東区の箱崎エリアです。

たとえば、「福岡市東区箱崎6丁目」では前年比+19.3%、「福岡市東区箱崎3丁目」は+21.1%という、非常に高い伸びを記録しています。

背景にあるのは、九州大学箱崎キャンパス跡地の再開発です。

福岡都市圏の希少な土地に、住友商事を代表とする企業連合が関与する形で、大型の再開発が進められようとしています。

このエリアはもともと住宅地需要が安定していた場所に加え、再開発期待が大きく作用して、今後のマンション適地としても注目度が急上昇しています。

新築分譲マンションの価格と発売動向

住宅市場全体を見ると、新築分譲マンションの価格は高騰しています。

2024年の平均価格は5,598万円で、前年比+40.1%です。。

この数字だけを見ると「高くなり過ぎた」と感じる方が多いと思います(私もその一人です・・!)。

ただ、中央区の人気エリア(赤坂・大手門)では竣工前に完売する物件が多く、販売は堅調です。

ただし、用地取得競争や建築費の高騰により、発売戸数は前年から13%減少しており、供給はやや抑制傾向にあります。

  • ペアローンの活用が増加
  • 大手地銀の融資期間が35年→50年になってきている(ローン負担力が増加)
  • それでも「立地・ブランド」が強ければ売れるという構図

鑑定評価では、こうした需給バランスやマーケットの動向を、個別物件の価値にどう反映させるかがポイントとなります。

まとめ│天神ビックバンでオフィス市況にも変化。空室率が改善するかに焦点。

福岡市の地価動向とオフィス市況を中心に、最新の不動産マーケットの様子を書きました。

令和7年の地価公示では、住宅地も商業地も全国トップクラスの上昇率を記録しており、「天神ビックバン」に代表される再開発プロジェクトが、まさに地価を押し上げる原動力となっています。

とくに「ワン・フクオカ・ビルディング」や「イムズ跡地(仮称)」などの大型物件は、今後の鑑定評価や投資判断においても重要な指標になることが予想されます。

また、九大箱崎跡地のような“これから伸びそうなエリア”にも注目が集まっており、評価実務でも問われる視点が確実に変わってきていると感じます。

地価上昇だけでなく、新築分譲マンションの高価格・供給減といった市況の変化も重要と考えています。

マンション価格だけを見ると「高すぎる」と感じる部分もありますが、それでもなお買い手がいるのは、福岡という都市の力が強い証拠なのかもしれません。

個人的に、宅建業者の方と話す機会が多いのですが、3億円以上の高価格帯でも立地や設備、眺望が良ければ売れていると聞いています。

現に、一部屋の賃料が100万円近い高級賃貸レジデンスが出来ていますし、「富裕層向け」という物件がこれからもっと増える可能性がありますね!

最後に事務所概要です。


次の【後編】では、福岡市における不動産の証券化やホテル・リート関連の動向、私募リートの登場、新築マンションと収益還元法の関係など、収益目線での内容を書きたいと思います。

→250506追記 後編の記事を公開いたしました。


以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
不動産鑑定士 上銘 隆佑

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